明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
 泣いているのかもしれないと思った。

「無駄よ。芽衣ちゃんは言葉が通じないから」

 そう言ったのは明香だ。

 彼女はにやにやと笑っている。

「いい加減にそういうこと言うのを止めたら?」

 私は彼女に強い口調で言う。彼女は臆したようだが、同時に自分の事を否定する私に反発心を覚えたようだ。

「あんたって自分の立場を分かっているの? あんたなんてどうにでも出来るのよ」

「何するの?」

 とぼけた私に苛立ったのか、彼女は余計に目を吊り上げる。

 ここで明香が具体的に何かを言ってしまえば、それはある種の脅迫だ。

 私が覚悟を決めたとき、白く細い腕が差し出された。

「竹下さん、もういいから」

 そう言ったのは芽衣で、彼女は顔を上げ、笑顔を浮かべる。

 そのときの彼女の笑顔はとても悲しそうで痛々しかった。

「あんたが悪いのよ」

 そう吐き捨てると、明香は亜紀子と一緒に教室を出て行く。

 私は芽衣に話しかけようとしたが、悲しい彼女の笑みを見ていると言葉が無に吸い込まれていく。

 芽衣もまた、波風を立てずにすむ方法を探しているのだろう。

「また、明日ね。もし、何か言われたら私に言っていいから」

 芽衣ははにかみながら微笑んだ。
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