明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
 でももしこのストラップが落ちそうな位置に置いてあり、芽衣が身を乗り出してそれを取ろうとて、そのときフェンスが壊れたら、今の状況になることは容易く想像できた。

「永田さん?」

 私は芽衣の名前を呼んでいた。

 でも先ほど感じた温かい風はもうなくなっていた。

 芽衣がこの場所を教えてくれたのだろうか。

 私は感傷的になりそうになる気持ちを抑え、涙を拭う。

 彼女が一番これを持っていて欲しい人に渡さなければならない。

「あゆみ」

 私はその人の名前を呼んだ。

 あゆみは立ち上がると、こちらを見た。

 私はあゆみに見えるようにそのストラップを持った手を掲げる。

 あゆみは目を見開き、私の側までかけてくる。

 あゆみの大きな瞳には涙が浮かんでいた。

「これ」

 あゆみは目に涙をため、そのストラップを受け取っていた。それを胸に抱く。

「バカだよ。こんなもの、また作ったのに」

 そう言うとあゆみはもっと激しく泣き出した。

 二人の生い立ちは複雑だ。それでも、お互いにとって誰よりもかけがえのない友人だったのだろう。

「大切にしないとね」

 わたしはあゆみに語りかけるようにそう言った。

 あゆみは唇をかみ締めると、頷いていた。
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