明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
 正岡の顔は心なしか引きつり、やつれた印象だ。

 倉橋は暗い表情ながらも会釈する。

 そこから徒歩で葬儀場に行くことになっていたのだ。

 正岡が私達を先導するように歩き出し、それについていく。

 その間、誰も口を聞こうとしなかった。

 葬儀会場につき、名前を書こうとしたとき、一人の黒い喪服を着た女性がぺこりと頭を下げる。

「芽衣と同じ学校の方ですね」

 そう口にしたのは細身で長身の女性だ。茶色の髪と瞳は、芽衣を彷彿とさせる。彼女は疲れを含んだ笑みを浮かべていた。

「この度は本当にすみません」

 彼女は自分の娘が立ち入りが禁止されていると言われる屋上に入り、転落死したのを気にしているのだ。

 だが、その態度が逆に言いようのない気持ちをかきたてる。

 そして、目頭が熱くなってきた。本当に事故なのかという気持ちと、彼女のいじめをとめていたら、あの日熱を出さなければ、同じ結末にはならなかったかもしれない。

 私は母親に心の中で何度も謝った。

 言いようのない気持ちで準備された椅子に座ると、短く息を吐いた。

 その時、芽衣の母親のそばに背丈の高い男性が歩いていてくるのが見えた。

 私はその人の姿を見て、誰かすぐにわかる。

 がっしりとした体格に、日本人離れした足の長さ、顔立ちは鼻筋が通っており、程よく掘りが深い。
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