明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
　明香は学校にいるときはそうでもないが、普段は派手な化粧を良くしている。最近は髪の毛を伸ばし始め、やっと肩の下までその髪が届き始めていた。

　彼女がそうし始めたのは、ある男性の影響だと噂になっていた。

　その人が長い髪が好きだからこそ、伸ばし始めた、と。

　それだけを聞けばほほえましいと思わなくもないが、現状の彼女を見ているとそんな言葉は到底出てこない。


　明香は芽衣の顎を右手でわしづかみにすると、強引に持ちあげた。
　芽衣がうめき声を漏らす。

「あんた、松下先輩のことが好きなんだよね。松下先輩は優しいから、あんたと話し相手になってあげているだけなのよ。あんたが相手にされるわけないじゃない。何、いい気になっているの？」

　そう芽衣に食って掛かる傍らで、明香の友人であり、取り巻きでもある御手洗亜紀子が芽衣の鞄に手を伸ばす。

「やめて」

　その動きに気付いた芽衣が小さく声を漏らすが、明香が芽衣の髪をつかんだ。
　芽衣は髪の毛が痛むのか、うめき声を漏らした。

　もう嫌だ。
　私は思わず頭を抱えると、短くため息を吐く。
　今の明香たちの姿を、その男の人に動画で送りつけてやりたい気分だ。

　でも、いつも私はそう思いながらも動けない臆病者だ。
　彼女たちのいじめの対象になりたくない。
　そう思っていたから。


　亜紀子の口元が怪しくゆがんだ。

「見つけたよ。パス」

　そう言ったのは御手洗亜紀子だ。
< 3 / 193 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop