明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
「わたし、この前松下先輩とデートしたんだよ」

 そう得意げに口を開いた明香を見て、私は心の中でため息を吐いた。

 修学旅行の初日、旅館に着くと各々の部屋に行くことになる。

 荷物を整理して一休みしようとしたとき、明香が私達の部屋にやってきていたのだ。

 話の内容は、明香の男の話だ。

 彼女は移動中に私と同じ班の上村加奈子に彼氏が出来たという話をしていたのだ。


 彼女は余程自慢をしたかったのか、荷物の整理をそそくさと終わらせ、隣にある私達の部屋にやってきたのだ。

 私は松下という名前が出てきて、思わずどきりとする。

 だが、私とは異なり、他の班のメンバーはあの憧れの先輩と明香が付き合っていたと知り、かなりの盛り上がりようだ。


 明香は得意げに松下についての情報をあれこれ語って聞かせる。


 そんな彼女の話を聞き、私は葬式で辛辣な表情をしていた彼を思い出す。

彼女の葬式にわざわざ来ていた彼が、芽衣をいじめていた明香と付き合うなんて、普通に考えるとありえないことだ。

明香が嘘を言う可能性も頭を過ぎるが、そんなメリットがあるとも思えない。
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