明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
 彼女たちはこちらに来ると、席に座る。

「彩乃たちはどこにいたの?」

「土産物を見ていた。早めに決めておかないと迷いそうだもの」

「彩乃らしいね」

 そう言った時、明香たちが入ってくる。だが、クラスメイトのほとんどが手ぶらできているのにも関わらず、彼女は旅行バッグを手にしている。

「古賀さん、荷物は置いてこないとダメよ」

「先生、私のポーチが盗まれたんです。この前の誕生日にお母さんに買ってもらったのに」

 その言葉に騒がしかった周囲が静まり返る。

「いつ気付いたの?」

「さっき部屋に戻ったらなくなっていたんです。私の荷物だけひっくり返されていて」

 明香の訴えに教師たちの顔が青くなる。修学旅行で盗難でも起これば一大事だ。


 そのとき、年配の着物を着た女性が料理を手に部屋に入ってくる。彼女はあたりの空気に気付いたのか、料理を運んで切ると佐田先生に声をかける。

「どうかされましたか?」

「何でもありません」

 佐田先生はそう即答する。

 恐らく変な噂が立つのを嫌がったのだろう。
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