くすんだ街
次の日、作業を終えた帰り道。
スグルは一人歩いていく女性を昨日と同じように追いかけた。

そして、女性の腕を掴んで建物の影の路地に滑り込む。

誰かに見られたらどうしようという気持ちはなかった。

ただ女性と話がしたかった。

スグルが立ち止まって彼女を見ると少し怯えたような視線にぶつかった。
あれだけ見つめていたのに目が合うのははじめてだった。

その大きな瞳には明らかな戸惑いの色が浮かんでいる。

この人は感情を持っている。

スグルの全身が心臓になったかのように鼓動が高鳴った。


「好きです」


自然とスグルはそう口にしていた。
このまま彼女を連れ去ってどこか遠くへ逃げてしまいたかった。
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