くすんだ街
「ずっと好きだったんです」


反応のない彼女にもう一度そう繰り返すと、不意に彼女は視線を逸らした。


「やめて」
「え?」

「そんなこと言ったら……ダメなんだよ」


彼女の瞳からキラリと光るなにかが零れ落ちた。
それが涙だとスグルが気づくよりも先に彼女は走り出していた。
スグルは、呆然としたままその背中を見送った。

追いかけたところで女性を苦しめることになるのかもしれない、今はもうどうすることもできなかった。

ただ一つだけ、スグルは心に誓っていた。

いつか、彼女を連れてこの町をでると――


それがスグルが感情を持っていられたの最後の時だった。
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