くすんだ街
「……思い出して、私のこと。あなたが私に感情を思い出させてくれたんだよ」


彼女が呟いた。
両目から光る液体がこぼれている。

どこかで見覚えがあった。

スグルは、彼女をただただじっと見つめた。
もう少しでなにかを思い出しそうな予感がしていた。

だが、スグルがそのなにかを思い出すよりはやく、


「おやおや、困りますよ、規律を破られては」


背後からそんな声が投げかけられた。

彼女が強張った表情でスグルの背中越しを見ている。

スグルはゆっくりと振り返った。
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