くすんだ街
「君は部屋に戻っていなさい」


工場長はトウカに銃を向けたまま、横目で少年を見やりそう命令した。

その声に少年がすっくと立ち上がる。
少年はトウカと工場長を交互に見比べた。

その表情になんの感情も浮かんでいないのを見て、トウカは泣き出したくなった。


「治療を受ければ、あなたも苦しい思いをせずにすむ。感情なんてこの街では不要なのですから」

「それでも! ……それでも、私はこの気持ちを大切にしたい」

「なら、死にますか?」


言うと同時に工場長の持っていた銃が火を噴いた。

瞬間、頬に焼けるような衝撃が走る。
遅れて、トウカの頬からスッと赤いものが滲みでてきた。
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