くすんだ街
女性はスグルの住む寮とは別の――形状はそう大差ないが――建物の中に入っていった。

その時、はじめてスグルは自分と女性が違う場所に住んでいたことを知った。

工場は一つしかないのに寮は他にもあったのか――

当たり前のことに気づいただけなのに、スグルはそれがおかしかった。
それは、休みの日のたびに女性の姿を探して自分の寮を歩いて回っていたからだった。

どうして、自分はそこまでその女性を気にするのか。

そのことをスグルは、幾度となく考えた。

もしかしたら、彼女はこのくすんだ街からスグルを助け出してくれるかもしれない、とそう思っていた時もある。

しかし、今は違う。

自分は、あの人のことが好きなんだと、スグルは漠然とながらも気づいていた。

ならば、どうすべきか。
それは考えなくても分かっていた。
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