美味しいほっぺにくちづけて。
「なぁ、小海。約束しないか?」



「約束?」





空さんは短い返事をすると私を見る。





「悩み事も、悔しいことも、辛い事もあると思うけど・・・それは、俺とおまえのいるときにしか言わないって決めない?」



「二人でいる時ってことですか?」




「あぁ、泣いてもいいけど、俺の前以外で泣くなよ・・・時には、強がりも大事だと思う。けど、俺の前では力を抜いていいから。」




「空さん・・・」




私が首をかしげると空さんは私の髪をくしゃくしゃにして、それから頭を撫でた。




「わかった?」




「・・・・・はい。」



こうやって、私と空さんの『約束ごと』は決定した。





大きなライトの灯りで、空さんが照らされているみたいで、キラキラしていて、いつもより違って見えた。





「小海が前を向いてるから、俺もそうしたいんだ。」




「空さんは、いつでも前を向いてるじゃないですか?」



「いいや、そんなことない。小海が、頑張ってるのを見て、俺も、頑張れる。」




なんだか、照れる。
そんなことないのに。



空さんと、話すうちに何かが変わって行くのか、胸の深く深く奥でじわじわとしてくるのを、私は感じていた。



私は、一歩一歩進めば良い。



空さんが言ってくれたように、世界で、私はたったひとりしかいないんだから。



でも、無理はするなよぉ〜、と空さんは言ってくれた。



空さんは、世界一優しい人。

私の心を軽くしてくれた人。



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