美味しいほっぺにくちづけて。

おばあちゃんと、海と、空と。



翌日、東京駅から二時間半ほどバスに揺られ、地元に着いた。バス停には、お父さんが白いアルファードで迎えに来てくれていた。
両親の顔を見ると、いくつになってもホッとするのは、何故なんだろう。




「お父さん、お迎えありがとう。」



「おかえり、疲れたろ?」



「ううん。」



お父さんの車の中でも、おばあちゃんを思い出す。



バスの中で、不思議なほど、心が落ち着いていたのを覚えている。
それでも、おばあちゃんの笑顔がシャボン玉のように、パズルのピースのように、幾つも幾つも、浮かび上がってくる。



幾度も、幾度も・・・

泣いちゃいそうな、泣かない自分でいられるような。



それは、Reyの曲を聴いていたおかげなのかもしれない。バスの中の静けさに二時間半も耐えられなかった私は、優しい歌声と共に、今までのおばあちゃんとの思い出をひとり、思い出していた。




『小海、うみ、うみちゃん〜』




何度も何度も私の名前を呼んでくれた、おばあちゃん。


その声が聞こえなくなるのは、やっぱり寂しいよ。



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