美味しいほっぺにくちづけて。
東京から、また電車に乗り、いろはのある地域に辿り着いた。
時刻は、十一時。



疲れた足を必死で動かすと、私は、自分の幻覚を見た気持ちになる。
頭の中に、クエスチョンマークが、幾つも浮かび上がるのに、心の片隅では、嬉しくて、思わず抱きつきたい衝動に駆られる私がいた。



どうして、いるの?
何故?幻?




目をぱちぱちさせてその人を見る私。その人は、私に気づくと、私のもとへ走ってこちらにやって来る。




「おいおい・・・どうしたんだ?」




声を、聴いた瞬間。たちまち、泪がポロポロと、とめどなく私の目から流れてゆく・・・



あれ、どうして、私・・・泣いてんの?
あれほど、おばあちゃんのお葬式では、泣かなかったのに・・・



空さんは、私の顔を不思議なように、心配したように覗くと、優しい声をして、頭を撫でた。



空さんの顔を見ると、大きな安易感が私を襲った。
胸が、バキバキと何かが、駆けめぐる。




「小海、ホッとした顔をしてる。ばぁちゃんの事で色々大変だったんだろ?」



「空さん・・・なんで?」


なんで、いるの?と聞きたいのに、上手く言えない・・・



「おまえが、心配だから。」




「もぅ、またからからってる。」




自然となんで、こんなに涙が出てくるの?

私は涙で、出来ているんじゃないかってぐらい、涙が出た。



空さんが、心配そうに私の頭に触れた。



「分かれよ。このすっとこどっこいが。」



「空さん、そのすっとこどっこいってなんですか?」



空さんは、教えねぇと言って、私の手を取って歩き出してしまった。



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