清水坂下物語
雪道
深い藪から突然沼みたいな池みたいな
おどろおどろしい所に出た。
もしかしてこの中に?想像しまいと思いつつも、
大都会をすぐ足元に控えて一歩紛れ込んだら、
こんな恐ろしい別世界が広がっているなんてと、
やっとのことで広い道へ出て民青と合流した。
正午に元の頂上付近で再び集合。皆半分不安を残
したままある程度心は落着いていた。
巡査長があいさつする。
「皆様ご苦労様でした。竹内誠君はこの大掛かり
な捜索にも発見することができませんでした。
数日分の旅費は持っておられるみたいなので、
恐らくどこかに旅行などされておられるものと
察せられます。近日中に連絡がご両親の元へ
必ずあると思われますし、ふと下宿のほうへ
返ってこられるかもしれませんので、その時は
温かく迎えてあげてください。本日は皆様
どうもありがとうございました」
ご両親も最後にお礼を述べられた。
皆が去った後にお母さんは修たちに言った。
「受験前にもこういうことが一度あって、
その時は3日目にそっと家に帰って来ました。
今回も明日くらいに実家のほうか下宿のほうに
そっと帰って来るかと思われますので、私達も
急いで帰ります。鈴木さんとお友達の方、それに
これだけ多くの方々が誠のために動いてくださ
って、ほんとにありがとうございました」
そう言ってご両親は岐阜へ帰った。
そしてよく朝早くである。鈴木の元に電話が入り、
死体確認のため大至急鹿ケ谷へ来るようにと警察
から連絡が入った。昨日の捜索範囲よりさらに
滋賀県方面へと登りつめた奥深い山中で
木の枝に首をつって竹内は死んでいた。
猪狩りのハンターが早朝に発見したそうだ。
死亡推定時刻は3日前。竹内は鈴木達と別れたその
晩、道に迷うかあるいは自ら進んでわざと迷ったか、
ついに死神に取り憑かれて首をつっていたのだ。
何が人生なのか分からなくなる。残念でしょうがない。
人っ子一人救えない、無常そのものだ。
死体は川端署の裏手の常泉寺に安置された。その晩
横に寝かされた遺体に向かって、右側に法華経研究会
のメンバーが20人ほど。左側に民青のメンバー20
人ほど。冷たい中、皆押し黙ったまま椅子に座って
ご両親の到着を待った。ふと修は鈴木を誘って
酒を買いに出た。一升瓶を2本。外は寒く、日暮れて
雪が降り始めた。うっすらと暗い中、道の中央部分が
白くなりかけてきた。ふたりの靴跡が規則正しく点々
と続く。修と鈴木は無言のまま歩み続けた。
つま先も心の中も全てがしんしんと骨の髄まで
凍りつくような12月の夜更けであった。
おどろおどろしい所に出た。
もしかしてこの中に?想像しまいと思いつつも、
大都会をすぐ足元に控えて一歩紛れ込んだら、
こんな恐ろしい別世界が広がっているなんてと、
やっとのことで広い道へ出て民青と合流した。
正午に元の頂上付近で再び集合。皆半分不安を残
したままある程度心は落着いていた。
巡査長があいさつする。
「皆様ご苦労様でした。竹内誠君はこの大掛かり
な捜索にも発見することができませんでした。
数日分の旅費は持っておられるみたいなので、
恐らくどこかに旅行などされておられるものと
察せられます。近日中に連絡がご両親の元へ
必ずあると思われますし、ふと下宿のほうへ
返ってこられるかもしれませんので、その時は
温かく迎えてあげてください。本日は皆様
どうもありがとうございました」
ご両親も最後にお礼を述べられた。
皆が去った後にお母さんは修たちに言った。
「受験前にもこういうことが一度あって、
その時は3日目にそっと家に帰って来ました。
今回も明日くらいに実家のほうか下宿のほうに
そっと帰って来るかと思われますので、私達も
急いで帰ります。鈴木さんとお友達の方、それに
これだけ多くの方々が誠のために動いてくださ
って、ほんとにありがとうございました」
そう言ってご両親は岐阜へ帰った。
そしてよく朝早くである。鈴木の元に電話が入り、
死体確認のため大至急鹿ケ谷へ来るようにと警察
から連絡が入った。昨日の捜索範囲よりさらに
滋賀県方面へと登りつめた奥深い山中で
木の枝に首をつって竹内は死んでいた。
猪狩りのハンターが早朝に発見したそうだ。
死亡推定時刻は3日前。竹内は鈴木達と別れたその
晩、道に迷うかあるいは自ら進んでわざと迷ったか、
ついに死神に取り憑かれて首をつっていたのだ。
何が人生なのか分からなくなる。残念でしょうがない。
人っ子一人救えない、無常そのものだ。
死体は川端署の裏手の常泉寺に安置された。その晩
横に寝かされた遺体に向かって、右側に法華経研究会
のメンバーが20人ほど。左側に民青のメンバー20
人ほど。冷たい中、皆押し黙ったまま椅子に座って
ご両親の到着を待った。ふと修は鈴木を誘って
酒を買いに出た。一升瓶を2本。外は寒く、日暮れて
雪が降り始めた。うっすらと暗い中、道の中央部分が
白くなりかけてきた。ふたりの靴跡が規則正しく点々
と続く。修と鈴木は無言のまま歩み続けた。
つま先も心の中も全てがしんしんと骨の髄まで
凍りつくような12月の夜更けであった。