甘やかな螺旋のゆりかご


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そうして、兄の眠り姫な症状は次第に快復していき、相変わらずべったりだった兄とわたしだったけれど家庭はゆっくりと温かいものだと安らぎ始め、祖母が訪ねてくる回数が僅かに減った頃、父が、今の義母と再婚することとなった。


話をきいて強張ったのは、義母が嫌だった訳じゃない。一般的な母親というものが理解出来ず、どう接していいか答えが出なかったせいで。父と義母を、決して再婚から遠ざけたかった訳じゃない。


空気を読んだ兄が、義母の手をそっと握る。ここにいてと細く呟く。小学校半ばの少年には見えない幼い仕草は、一瞬で皆の躊躇いを解いてくれた。何度か顔合わせをされていた段階で、義母は自分たちを傷付けないと予感させてくれる人だったから、わたしも兄が触れていた義母の手を一緒になって握った。


兄とわたしが握る反対の手、いや腕の中には、まだ歩くことも出来ない女の子の赤ちゃんが抱えられていた。その柔軟で逞しい姿に安心感も覚えた。


兄とわたしの妹になってくれた女の子は、勿論義母の子どもで、その血縁の父親とは一度も家族になることはなかったらしい、とずいぶんわたしが成長してから教えてくれた。


祖母のときには、そこに哀れみも含まれていた。母親だった人は尚のこと――お母さんの作ってくれるご飯が美味しいなんて、洗濯して畳んでくれた洋服がいい匂いなんて、家の中のオレンジ色の光が心地いいなんて、義母で知った。それが当然なのだとも。背が伸びたことで一喜一憂され抱きしめられると心がむずむずとし、それらの全てを伝えると、泣き笑いをされた。きっと、陰では涙してくれていたのだろう。


歩き始めた妹が兄とわたしの後ろをついてくる。頭が大きいものだからバランスを上手く保てず頻繁に転び、兄とわたしは顔を青ざめながら妹に抱きつく。妹は痛がりもせずに弾んで笑い、父と義母はまた泣き笑う。


光景のひとつひとつが幸せなのだと知る毎日だった。


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