甘やかな螺旋のゆりかご


兄より幼いわたしに、その解決方法など導き出せない。浅い呼吸の眠れぬ兄の隣、二段ベッドの上で、兄に寄り添い涙する。兄の負担になってしまうけれど流れる涙。一晩中、同じように起きていて同じように苦しみたいのに眠ってしまう自分に、わたしは唇をきつく噛む。


兄は言う。わたしがいてくれて良かったと。わたしにばれてしまい、心が軽くなったと。焦らなければそのうち治るだろうと平気そうに。兄の微笑みに、わたしはせめて、自分が力を込めていられる意識あるうちは、毎晩、兄の手を握っていようと決めた。




わたしのその手が兄を救えているのだと知れたのは、わたしがその行為を始めて何年か経ったあとだった。わかりやすすぎるその変化を、兄を心配ばかりしていたわたしは気付くことが出来なかった。


――「彩音がいてくれて、僕の手を握ってくれていると、嘘みたいに眠れてしまうんだよ」――


どうしてだろうね、情けないね、と兄は笑う。


どうしてだろうね、もっと頑張る、とわたしはまた泣いてしまう。


もう、おにぎりを分けあって食べても悲しくなることはない。存在を当然のように肯定される。いつもいつも二人でくっついていなくてもいい。


けれど、時折眠れずに浅く呼吸をする兄に、わたしは寄り添い続ける。


兄はそんなわたしに手を握られながら、それ以外のときも傍にいるわたしを、いてくれて良かったと微笑むものだから、わたしはそれが嬉しくてたまらない。幸せな現実から垂れ下がる蜘蛛の糸のように縋ってくれた。


家族は大切だ。もう失うには痛すぎるもの。けれど、その中で兄はやはり別格で。兄も、そうだと言ってくれて。




けれど、わたしのそれは兄のものとは違うのだと、自然の摂理のように受け入れたのは、わたしが兄を救えたのだと知ったもう少しあとのこと。




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