甘やかな螺旋のゆりかご


「わたしは兄さんのことが好きよ。だから――」




ああ。何を言えば、どういう方法なら、わたしの想いが全て伝わるのだろう。あってはいけない恋心なのに抱いてしまった兄への想いが本物だと。


けれど、つまるところは、結局ありふれている、どこにでもある言葉。たったひとつの真実だからこそ、どこにでもある言葉。語り継がれてきた物語のように残ってきたそれ。


わたしは兄を好きだという、それにつきてしまう。


「兄さんが好きです。兄さんしか好きじゃないの」








――このときのこと、わたしは一生忘れない。






決して、同じ気持ちであったはずはない。そうであったなら、わたしは気付いていたはずだから。


決して、今この瞬間、兄がわたしを好きになってくれたのではない。


兄のためならわたしは全てを、家族だって捨てられるけれど、そういうものを兄は持っていない。当然だ。


憐れんだ? ほだされた? 流された? 酔った? 欲情してくれた? 妹のワガママを受け止めてくれた? ――ううん。なんでもいい。


求めているものは今このときだけではないけれど、受け入れてもらえるのならそれでもいい。兄にわたしは触れたいし、触れてほしい。


自分の胸元で切に訴えるわたしに戸惑いながらも、兄はしばらくの時間わたしをそのまま突き放すことはせず、そうして、


わたしの肩に、その大きな手を添えてくれた。


見上げると、兄の目は少し虚ろで、少し熱をもっていた。正気ではないその状態に落胆と安堵を感じて下を向くと、今度はわたしがケーキの箱を落としてしまっていたことに今更気付く。けれど、拾うことはせずに兄の身体を味わっていた。


拒むような雰囲気を、兄からは感じなかった。


兄から、痛いくらいに抱きしめられた。




このときのこと、わたしは一生忘れない。


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