甘やかな螺旋のゆりかご
神様。
ごめんなさい。わたしが全て悪いんです。
兄を連れていかないで。助けて下さい。
わたしが代わりになって構わない。兄が悲しまないようにさえしてくれるなら。だって、こんなことになっても、兄はきっと悲しむの。
優しい人だから。こんな素敵な人はいないから。
だから、もうあんなことはしません。
兄を困らせることはしないから。
兄がいなくては意味がないから。
兄がこの世にいてくれるなら。
だから、神様。お願いです。
どうかどうか。
兄には、幸せだけを与えてあげられるよう。
わたしはもう過ちは犯しません。
そんなこと、そんな当然なことを、わたしは蔑ろにしてしまっていた。
兄がいてくれるだけでいい。茹だった頭は何故当然のことを忘れられたのか。そんなの、いつも思っていたことじゃない。
兄がいるからわたしはここにいられる。兄が全てだ。
勘違いも甚だしい。この想いは、秘めておくからこそ許されるもので、それ以外のなにものでもない。
「ごめんなさい……」
兄が守りたいものの、ある意味象徴でもあるわたしが、兄の守ってきた全てを破壊しようとしたのだ。だからこんなことになった。
謝るわたしに何を言えばいいのかわからない兄の手に触れる。目覚めたときに嫌がるかもしれないと離したけれど、もう一度。
兄は、わたしを拒まないでくれた。
「ごめんなさい、兄さん。……最近、ちょっと色々あって、きっと混乱してしまったのね、わたし。だから、あんなこと……」
あんなことがあったあとでも、兄の目は、わたしの色々あったことを心配する。
ああ。存在してくれるだけでなく、まだそんなことまでわたしにくれる。
「大丈夫よ、わたしはもう。――大丈夫よ、兄さん。兄さんの大事なものが壊れることはないわ。わたしも兄さんも父さんも母さんも可愛い妹も、この家族は、永遠に壊れたりしない。大丈夫。大丈夫よ。だから――」
――安心して眠っていいのよ。
もう片方の手で兄の額に触れると、いつものように、安心した表情を浮かべ、兄は静かに健やかに眠りについた。
何を血迷って己の欲だけを叶えようとしていたのか。わたしは大馬鹿だ。
この寝顔が守れるだけで充分じゃないか。
荒れ狂っていた心は、もう凪いでいた。