甘やかな螺旋のゆりかご
――幸せになりなさい――
慰められるように、諭されるように、先日探偵に言われた言葉だ。
――ええ。わたしは幸せよ。もう充分。
兄がこの世にいてくれるだけで幸せなのだ。それが骨身にしみたのが今日で、こんな代償があったのは生涯の罪だけれど。
深く眠ってしまった兄を見つめながら傍らで、わたしは兄が買ってきてくれたケーキを頬張る。もう原型を留めていないそれはフランボワーズの味が最初に舌をつき、そのあとマスカルポーネチーズの風味が口内に広がる。わたしの好きなものばかりが次々と飛び出してきて。
わたしは、見ている人がいないと本当泣き虫で、今このときもそれは止まってくれない。
自戒と、幸福を噛み締める涙のしょっぱさと、ケーキの甘酸っぱさが混じるこの味を、わたしは一生忘れない。
わたしは最低だから、兄への想いを捨てる、なんてことはしない。けれど、もう一生伝えることはしない。
兄が守りたいものを、わたしも必ず守っていく。わたしは兄の妹。それを越えないことが幸せなのだ。兄が守ってきた妹を守っていく。
このうえなく、幸せなことだ。
兄が、幸せなら。