甘やかな螺旋のゆりかご
4・イチゴ
*4・イチゴ*


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送別会帰り。ほろ酔いで思考能力の低下した脳みそと、真冬の深夜の冷気で凍えた身体が、自分の部屋に辿り着いた途端、脳みそも身体も驚くくらいに熱をもった。


こんな急激な、熱は……知らないかもしれない。




小さな頃は妹とふたりの、今はひとりの部屋に入った途端、僕の足は膝から折れて扉を背に崩れ落ちた。


なぜ動揺するのだろう。妹なのに。おかしな話だ。





バレンタインに日付の変わった少しあと、作っていたらしいチョコを冗談でねだった僕の口には、からかっていないほうの妹からガトーショコラが放り込まれた。


こっちだって愛しい妹でしょう?――ああ。その通りだ。何も嫌なことはない。


こちらの妹だって勿論愛しい。思い入れなら、それこそ一番深い。


そんな妹からの、お情けであるはずのものに、僕は違う感情もあるのではないかと思ってしまった……。


酔っぱらいの兄を宥める為だけに放り込まれたガトーショコラに他の意味合いを深読みしてしまったのは、半年ほど前、居酒屋の隣の個室から聞こえてきた妹の言葉たちのせい。呪いのようだと嬉しそうに語っていた恋の話。


そして、何年か前、僕たち以外の家族が帰らないふたりきりの夜、吐露された妹からの告白。……あれは、ただただ、嫌なことばかりあっての自暴自棄の行動だと言われたというのに。


半年ほど前と何年か前が、僕の中でリンクしてしまった。


あり得ない話だし、あってはならないことなのにリンクしてしまったのは、僕にしか見せない妹の深部があまりに多すぎるのと、ふたつの間を繋ぐ思い当たることが、僕と妹の間にはありすぎて仕方がなかったからだ。


妹が、僕を異性として想っているかもしれないという推測。それを異常だとは思わず、僕になんてあり得ないことだという思いしか浮かばなかったのは、やはり、昔のことが原因しているのか。一緒に居すぎた幼い頃は、そんな倫理観を取っ払ってしまっていたのか。


なんて失礼な。幸せな今、不幸な過去を理由に物事を考えるなんて。


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