甘やかな螺旋のゆりかご
「今度私ね、彩音ちゃんとデートするの。パパも行く?」
「行かねえ。女子二人のテンションなんておじさんはもう無理」
どうやら、俺が帰ってきたときの娘の歓喜はそれだったらしい。ちょっと大人の服が見たいがそんな店には入りづらいし、友達を連れても、それが女子高生なら気後れは変わらないと嘆くと、ではわたしが、とお嬢さんが言ってくれたのだそうだ。
「でも、わたしの服装も、そんな大人ではないけどいいの?」
「彩音ちゃんみたいのがいいの~」
「なら良かった。わたしの歳だと、雑誌とかでももう一段階落ち着いたのが載ってるんだけど……」
「けど?」
「御値段は可愛くないし、好みでもないのよね」
「そんなのは私もいらないよっ、大丈夫。……でも、彩音ちゃんのお財布事情を厳しくさせちゃってごめんね。パパの代わりに謝るよ」
娘は、俺に非難の目を向けながらお嬢さんに謝罪をしていた。雇う前からここでちょくちょく顔を合わせていた娘たちは、今やすっかり仲良しさんだ。結婚して家を出てしまった妹と似ているし可愛いからと、娘を甘やかしてくれるものだから当然か。
給料のことなど、そんなのはもう交渉済みだと娘に反論しようとしたところ、ちょうど退勤時間のベルがパソコンから一度だけ鳴る。お嬢さんを雇ってからそうなるように設定した。
もうすでに帰宅の準備をあらかた済ませていたらしいお嬢さんは、いつもよりも俊敏に残りの作業にとりかかる。
「ああ。そういえば今日か。妹さん帰ってくるの」
「そうです。おチビちゃんがわたしを待ってるので失礼します」
お嬢さんの妹は、うちの娘と歳もそう変わらないというのに、高校卒業と同時に結婚。現在二人目の出産で里帰りらしい。わたしの代わりにどんどん産んでくれると張り切っているのですと笑って話すお嬢さんに、三日前振り返らず相槌をうった。
雇ってから導入したタイムカードを押し、お嬢さんは一礼して帰っていった。