あと少しの恋
すると電話の向こうから声がした
「シエルホテル」
ってあの高級ホテル?
「あのシエルホテルまで」
運転手さんも驚いていた
けどそれ以上に私は驚いていた
電話の向こうから聞き慣れた声がした
「まっせいぜい頑張れよ」
この声···
「希瀬さんきらないで」
「義兄貴とデートだろ
大丈夫だよ骨折程度だからおまえが心配することないんだわ」
希瀬さん本当は違う
言ってることぜったい違う
でも私は舞いあがる気持ちを抑えきれずに冷たく言い放ってしまった
「別に心配なんてしてませんから」
「はいはい俺はどうせ踏み台扱いだろ」
希瀬さんは軽く笑うと一方的にきってしまった
タクシーは華やかなネオン街をはしり次第に大きくて煌びやかなホテルのエントランスに着いた
ドアが開いて待っていてくれたのは由貴さんだった
「姫、お待ちしておりました
先に着替えてください」
私が渡されたのはどんなに自分が働いても手も届かないような高級ブランドの真っ赤なドレス
私はやっぱり嘘つきでなんにしても足りないのだ
トイレでドレスに着替えて髪とお化粧を直して靴を履き替えた
ピンヒールのハイヒールまるで硝子の靴のようだ
ホテルに戻ると由貴さんが食事にしようといい最上階の星のラウンジで食事にした
キラキラした夜景の中、慣れない食事に困りながらこれなら牛丼のほうがおいしいなどと思いながらシャンパンに口をつけた
「気に入ったか?」
「うっうん」
「それともまだ希瀬のことが気になる?」
図星すぎて言葉につまりながら首を振った
「ぜんぜん」
「あいつはさ本当は他人なのに毎日、飽きもせず食べないってわかってても弁当用意してさバカなんだよ」
「そういう見下した態度よくないと思います」
希瀬さんが気に入らないのはわかるけど他人でも血はつながってなくても義兄弟なんだから大事にしなきゃならないはず
「やっぱり希瀬が気になるんだ」
「違います私はただ」
食事もそぞろに私は由貴さんに手をひかれながらスイートルームに押し込められベッドに叩きつけられた
「こんなのひどすぎます」
私は泣きじゃくりながらそう言った
「ごめん泣かせるつもりじゃ」
「···」
私は一か八かピンヒールを手に持って由貴さんを押しのけてエレベーターで階下に降りて外に出るなりタクシーをひろおうとした
でもやっぱりそれすらできなくて柱の影でしゃがみ込んでいると
「なにしてんだおまえ」
えっ···
顔をあげるなり笑いだす
< 4 / 26 >

この作品をシェア

pagetop