あと少しの恋
ベッドに倒れ込んだらなんだか瞼が重くてそのまま眠ってしまった
夢の中で私は希瀬さんの腕の中にいた
とてもあたたかくて幸せ
このまま朝が来なければいいのに
でもやっぱりちゃんと朝が来てなんだかおいしそうな匂いで目が醒めた
んーと伸びをして辺りを見渡せばやっぱり自分の家じゃない
「おはよ、ちゃんと寝れたか?
つーか昨日の詫び」
そう言ってテーブルを見るとトーストに目玉焼きサラダとコーヒーが並んでいた
「すごい」
「そうか?」
「はい」
私は希瀬さんと一緒に朝ご飯を堪能した
「おいしい幸せ」
「ったく食べてるときは可愛いな」
「ひどい」
朝ご飯を食べていると希瀬さんの携帯が鳴った
「希瀬?いま下にいる
会社まで送るから鈴をよこせ泥棒ねこ」
「朝からな~に怒ってんだよ
血圧あがるぜ?」
「うるさい」
電話越しでもわかる剣幕
希瀬さんは一瞬、私を見て端末をこちらに渡してきた
「もしもし」
「おはよ鈴」
「おはようございます」
「今から3分で来い」
「行きませんタクシー使いますから」
その言葉とともにドアがバンと音をたてて開く
「来い」
「食事中」
「希瀬ちょっと来い」
ぐいっと希瀬さんの腕をひく
希瀬さんはしかたなくついていく
ドアの向こうでなにを話したかは私は知らない
「希瀬どういうつもりだ?」
「どうもこうも兄貴のやり方は気にくわないんだよ」
「おまえはまたそうやって弄ぶのか?」
「俺をなんだと思ってんだよ」
そこまで言い終えると支度を終えた鈴が出てきた
「んでおまえはどっちと行くんだ?」
希瀬さんをちらりと見て悩む
「由貴さん昨日はすみませんでした」
会社に行くだけだし我慢しなきゃ
寂しそうな希瀬さんをちらりと見て私は歩きだした
「鈴、なに考えてた?」
「えっ、なんでもないよ」
「希瀬のことか?」 「別に
本当になんでもないから」
滅多に乗れない高級車に乗ってもちらつくのは希瀬さんで
由貴さんは車のキー を差し込むふりをして私にキスをした
「誰にもじゃまされないここなら」
手を頬に滑らせ首筋に触れる
ちくりとした痛みで顔をしかめた
「あっ···」
「この痣···希瀬?」
「違います」
「ここで待ってろ」
「会社に遅れちゃいますから行きましょ」
横からため息とともに声がする
「おまえはなんにもわかっちゃないんだ
希瀬があいつがどんな奴かも」
希瀬さんは希瀬さんだよね
「キライなんですね」
「まあな」
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