あと少しの恋
「でも兄弟なんですよね」
「義兄弟だ、母親が違う
あいつはな最低なんだよ
俺の彼女を殺した」
「殺したってそんな···」
「帰り少し時間をつくってくれ」
私はゆっくり頷いた
車がはしる手前、希瀬さんが窓をノックしてきた
「ほらよ」
由貴さんが軽く睨んで言う
「迷惑なんだよそういうの」
「だろうな」
「おまえどういうつもりなんだよ
俺の人生はいい
けどな美弥の人生まで台無しにすることないだろ」
バンとすごい音がしてドアが閉まった
「なに怒ってんだよ」
「おまえな」
「事の顛末きかせてやるよ
あいつはな望んでたんだよ」
「希瀬てめぇいいかげんにしろ」
「いいかげんにするのはあんただよ」
希瀬さんはさらりと言い捨てると車のドアを開ける
「希瀬さん?」
「行くぞ」
「えっ···ちょっ···」
「あんたは頭冷やしとけよ」
さらりと由貴さんにそういうと片手で器用に車を発進させた
「俺のこと信じなくていいからキライでいいから」
「えっ?」
「守れなかったのは事実だし起きたこと終わったことをいちいち口にするのはキライだから
そっかおまえは知らないんだよな」
そういうと希瀬さんは路肩に車を停めた
「事態が飲み込めないんですが」
希瀬さんは端末をとりだして綺麗な女性と由貴さんの写真を見せてくれた
「美弥、由貴の彼女な」
「すごい美人さんですね」
「まあな」
「えっとなにがあったんですか?」
「おまえ知らないのか?
三年前に起きた立てこもり事件」
「あっあの銀行の奴ですね
でもなんで···
ちょっ希瀬さん」
希瀬さんはするりとシャツを半分ほど脱いだ
背中についた深い切り傷
「抱かれたい?」
「冗談はいいですから」
「悪かったな」
「どうして···」
「巻き込まれたんだ
偶然居合わせて
美弥が人質になって助けようとした
けど返り討ちにあってこの様だ
それまでは美弥も由貴も俺もすごく仲がよかったんだ笑えるくらいにな
まあ弁当は罪の代価だ」
笑いながら希瀬さんはシャツを直し車を進めた
「ちゃんと謝ったほうがいいと思います」
「だよな、わかってるけどなできないんだよあいつも俺も」
車は朝の荘厳な空気も光も届かないようなひっそりとした霊園の前で停まった
希瀬さんに案内されながら一番奥のひっそりとした場所にある小さなお墓の前についた
「美弥だ」
霧峰美弥と小さく掘られていて白い花束が置かれていた
私は言葉も出ずに泣いていた
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