【番外編】 Sicario ～哀しみに囚われた殺人鬼達～

｢君はこの状況を、打開出来ると...思っているのかね?｣


男は自分が勝ち誇っていると、確信しているようだ。
其れもそうだろう、何せ相手は年端もいかぬ子供と、泣き叫んでいる少女だけなのだから。

だから、ぼくは男に微笑んだ。


｢...貴方は、知らないの?
人は五感の1つが欠如すると、残りの感覚が其れを補うんだ。
...例えば、視覚が欠如すると...聴覚や臭覚が発達する、とかね...。｣


男は顔を歪める。ぼくの言葉がいまいち理解出来ていなかったようだ。
男にはこの音が聞こえていない。ベティも同じだ。

聴覚の発達したぼくだけが聞こえている。
この音は...今のぼくにとって、“希望”だ。

そしてぼくはまた、男に対して微笑んだ。


｢遅い...。｣


ぼくとベティの背後から、足音が聞こえてくる。
この足音を、ぼくは知っている。


｢だって、家に行ってもいねぇーしよ。｣

｢ボク達探してたんだよ〜。｣


セルリアとドールだ。
ぼくは2人を振り返って、少し笑った。


｢...でも、遅い。｣

｢だから、謝ってんだろ。｣


男はセルリアとドールを、気に食わないと言った視線で見る。
そうだろう、彼にとっては邪魔者に過ぎないから。
ぼくは男へと顔を向け直す。


｢ほら、打開出来たよ...。｣

｢おっ、お前夕方俺とぶつかったおっさんじゃねぇーか。此奴があの『血塗れた芸術家』だったとはな。｣


まさかセルリアと接触が有っただなんて、意外だったな...。
てっきり自分好みの子供に、ああ言う手を使っていたとばっかり思っていた。
初対面で警戒心を出来る限り消しておけば、2度目に会う場合の警戒心はかなり無くなる。

そう言う戦略だと思っていたのだが...、単に眼鏡の写りが悪かったと考える事が妥当かな。


｢殺られる前に...殺れば良いだけの事ｯ｣


男はぼくの首へ手を伸ばした。ぼくの首に触れる一歩手前で、男の肩を何かが掠めて通り過ぎた。