【番外編】 Sicario ～哀しみに囚われた殺人鬼達～

｢あっぶなｯ!?おい、ドール!!首は狙うなよ、死んじまうだろ。｣

｢そうだったね。ごめん、ごめん。｣

｢謝る気無いだろ...。｣

｢まーね。｣


何かを投げたのは如何やら、ドールのようだ。
ドールの怪力には何時も驚かされる。まるで、弾丸の様に通り過ぎて行った。
普通の人間ではまず有り得ない。人体改造されているから、話は別になるが...。

男の注目がぼくから、ドールへと切り替わる。
だが、戦おうとは思っていないようだ。表情が明らかに、恐怖を晒しているからだ。


｢化け物め...。｣

｢イカれた奴に言われたくないな～。｣


ドールがまた何かを投げた。今度は其の何かが男の左足首を貫通した。
男は絶叫し地に伏せた。
セルリアが男に向かって、楽しそうに歩を進める。


｢...殺さないでよ。｣

｢解ってるって、気絶させるだけだっつーの。｣


不安だから念を押して言ったんだよ。
セルリアは男の前に立つと、男が手で覆いかくしている患部を、手ごと踏み付けた。
男が悲痛の叫びを漏らす。
セルリアは更に踏み付けている足を、力を掛けながら左右に動かした。


｢おっさん、まだ気絶しねぇーんだ。スゲー。何時までもつんだ?ほら、頑張れよ。嗚呼、ショック死すんじゃねぇーぞ。俺が後から怒られちまうからな。｣


男に拷問紛いの行為をしているセルリアは、とても楽しそうに見える。
きっと相手の痛みなど微塵も考えていないのだろう。

其の行為を見つめていると、ドールがぼくの隣へ歩いてきた。
ドールへと視線を移す。


｢ディーブは何時も無表情だ。何考えているの?｣

｢聞いて如何するの...。｣

｢興味本位だよ。答えを言わないなら其れで良いよ。｣

｢...あっそう。｣


ドールの視線がぼくからベティへと変わる。
ベティは涙を流したまま、暴行を加えるセルリアと痛みに悶える男を見つめていた。


｢ムーン。こっちに来なよ。其処は君の居るべき場所じゃない。｣


何の反応の無いベティを、ドールは割れ物を扱う様にゆっくりと抱きかかえた。
今のベティは様々なショックが起こりすぎて、精神が崩壊しているように見えた。


｢ディーブも一緒に来なよ。あの人はセルリアに、任せておけば大丈夫でしょ。｣

｢...そうだと、良いけどね。｣

｢セルリアは仕事は、きちんと殺ってるでしょ。｣

｢まぁ、そうだね...。｣


ぼくがそう答えると、ドールはセルリアに声を掛けた。
｢先に行ってるね。｣とだけセルリアに伝えると、ドールはベティを抱えたまま歩き出した。
ぼくはドールに置いて行かれないように、一緒に歩き出した。