【番外編】 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
家に辿り着いたが、何時も家にいるギフトは副業で家にいない。
こんな時にギフトがいれば、ベティに対してどんな風に対応すれば良いのか、教えてくれるのに。

ぼくは仮でも医者と言う立場にいるが、専門は外科だ。
精神科の療養の仕方なんて知らない。
ベティは何かに取り憑かれたかのように、虚ろになっている。
彼女にとってはショックが大き過ぎたのだ。

ドールはベティをソファーに座らせると、自身も隣に腰を降ろした。
ベティの顔を覗き込んで、面白そうと言った表情をしている。
一体何をするつもりなのだ。


「ねぇ、ムーン。何を見てるの?」


ドールはベティの頬を両手で包んで、虚ろなベティの瞳を見つめた。


「君は、何を...見ているの?」


ベティはドールの言葉を何とか聞き取ると、今にも消えてしまいそうな声で答えた。
ドールの奇妙な行動が気になって、ぼくも2人が座っているソファーへ向かった。


「え、...エト...ワール...。」

「其れは誰なの?」

「私の...、弟。」

「君の弟は死んだろ。」


ベティはドールの手を払うと、人が変わったように怒鳴り出した。


「生きてるわッ!!!私見たものッ!!!!!!」


ドールはギフトに似た笑顔で、楽しそうに微笑んだ。
何を楽しんでいると言うんだ。

ドールはベティの肩を掴むと、何時もとは少し違う澄んだ瞳で、ベティを捉えた。
其の瞳を見てベティの動きが止まる。


「死んだ者は戻らない。何があっても...君が願っても、欲しても、泣き叫んでも、心を壊しても、死へ直面しても、何をしてもだ。
泣く前にさ...君は現実を見ろよ。
ぼくは弱虫が嫌い、泣き虫が嫌い、無力が嫌い、...何より現状打破しない事が嫌い。
ムーンは何で、ボク等の元に来たの?」


ギフトを連想させる饒舌さ、ぼくはこの時ドールがドールに見えなかった。
笑顔の奥に潜んでいる狂気の鱗片を見た気がする。
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