【番外編】 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
其の日___俺は、ケビンと約束していた本を買った帰りだった。
ケビンが表に出ている時にメモ帳に書いた本を、俺の所持金で買っている。

ケビンは殆ど俺の後ろに居るから、ケビンの所持金なんてものは元から無い。
俺が買うって事は当然の成り行きだ。
だからと言って別に嫌な訳じゃ無いし、“あいつ”に頼まれている様な気がするから、逆に嬉しい...。

買ったばかりの綺麗な本が入った紙袋を大事に抱える。
突然降ってきた雨に濡れないようにな。
折畳み傘を持って来ていたから、そんなに困る事は無かった。
唯本が濡れないように注意しなくてはならない。
ケビンは本に関しては五月蝿いから...。


「早く帰らねぇーとな...。本が湿っちまう。」


寝ている時に怒られるのが、後々面倒臭い。
マジで女みたいに俺をぽこぽこ殴ってくる。其処で俺が跳ね返す訳にもいかなくて、大して痛くもない拳をケビンの気が済むまで受けなくてはならない。


「“あいつ”と同じ顔だから、強く言えねぇーし...。
俺って相当“あいつ”に弱かったんだな。」


仕方が無いと言ったら其れで終わりなんだけどな。

書店から出て、特別人の多くない通りを歩いている。
何故かは解らないが、ふと俺は路地裏に視線を向けた。本当に何気なくだ。
誰だってふと周りを見回す時があるよな。
其れだよ。まさに今其れをやったんだ。

そしたら、記憶に新しい人物の姿が視界に入った。
女物の服を着た細身だが逞(たくま)しいラインが目立つ。黒く長い髪...。

好奇心と興味で其の人物に声を掛けた。


「...白虎。」


白虎は路地裏の壁に張り付いて、奥にある何かを見つめている。
俺の声に驚いて、白虎は悲鳴に似た声を殺して、俺の方を振り返った。


「何してんだ?」

「ちょッ!?何でセルちゃんが居るのよ!!?」

「セ、セルちゃん...?」


何だ、其のあだ名は...。
思わず顔が引き攣ってしまった。
“ちゃん”付けなんて初めてだ。


「あッ!!ちょ、静かにしなさい!!」


白虎に口を手で塞がれ、半ばヘッドロックをかけられた状態になった。
待った、何でこうなった。
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