君色パレット
空色
授業中、ぼんやりと窓の外を見下ろしながら松嶋 亮人(マツシマ アキト)は物思いにふけっていた。
丸く黒い瞳は中庭に咲く花を映し、彼の焦げ茶色の髪はふわふわと早春の風になびいている。
割りと整った顔をしているが、イマイチパッとしておらず、女子からの人気はそこまでではない。
蛍光灯に反射して、亮人が片耳につけているピアスが銀色に光った。
黒板の前に立つ教師の話もそっちのけでシャープペンシルを回し、頬杖をついてため息をつく。
(…今頃、何してんだろ)
亮人は、自身の卓上に広がるたくさんの記号が綴られたノートに視線を下ろし、目を伏せた。
亮人が思いを巡らせるのは、同じ高校の同級生、河下 小百合(カワシモ サユリ)の事だった。
出会ったのは、去年の一学期、親友と共に繰り出した渋谷での出来事がキッカケだった。
彼女も同じ日に幼馴染みと共に渋谷に来ていたらしいが、いかにも面倒臭そうなナンパに絡まれていた。
親友は小百合の幼馴染みが気になるらしく、亮人も親友に連れられてナンパ男たちの間に割って入った。
「…あ、ありがとう」
ナンパ男たちを追い払ったあと、普段 気が強いのか、恥ずかしげにうつむいて彼女はそう言った。
その時から、亮人の心は動き出した。
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