君色パレット
白色
(放課後に中庭で、なんて、勢いで言っちまったけど…なぁ)
五限目の現国の授業中、亮人は頬杖をついたまま、深緑色の黒板を目していた。
現国の教師が銀縁の眼鏡を右手の中指で押し上げ、教科書の中の一文を読み上げる。
声を聞き流しつつ、亮人はくるりと一度、シャープペンシルを回した。
ペン回しは、亮人の何かを思考するときの癖だった。
(…本当に相手を想う恋って、なんなんだろう…か)
小百合の言葉の一字一句が頭から離れず、目をつぶって考えを凝らす。
「…では、羅生門の五段落を音読してください。松嶋」
「…あっ、はい!」
亮人は騒がしく音を立てて起立すると、教科書を持ち、現国教師の指示した箇所を教室に響く程度の声で読んだ。
「作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし…」
熱心に教科書の文字を追うふりをして、亮人は視界の隅に入る倉井 斗真の姿に注意を向ける。
そこには、いつものように優しい笑顔の斗真はいず、どこか暗い面持ちで、彼はノートを見つめていた。