君色パレット
君色
放課後。
亮人はわざと時間をかけ、教科書類の一冊一冊を通学鞄の中に詰めていた。
やっと全てを詰め終えた頃には、すでにクラスメイトの大半が下校していて、亮人は通学鞄を肩にかけると廊下に出る。
階段を下りながら思い浮かべるのは、前に見た花開くような小百合の笑顔だった。
一階に着き、生徒玄関に向かうと靴箱から下靴を取り出して履きかえる。
夕陽が、西の空を赤く染めていた。
中庭に続く扉を開けて、目を落としながら昼間 座ったベンチに歩み寄っていく。
ふと顔を上げると、噴水から噴き出る水に透けて、紺色のセーラー服が見えた。
「…河下」
ベンチに座る女子を視界に入れ、亮人は言葉をこぼす。
小百合は亮人の方を見ると、力なく笑って立ち上がり、ベンチの左端に掛けた。
「あ…松嶋」
「俺も座っていい?」
「…うん、いいよ」
亮人は通学鞄を自分の左隣に置き、ベンチの端に座り込んだ。
視界の隅には、悩ましげな表情で、花壇に咲く花を見る小百合が映る。
亮人は意図的に、明るい声を出した。
「俺、中庭 好きなんだ。学校ん中じゃ、一番お気に入りの場所だよ」
「…そうなんだ。私もだよ」
小百合がそっけなく返し、中庭には再び、気疎いような沈黙が漂った。