君色パレット
「えっ、と…河下、どうした?」
慌てふためいて、亮人はそそくさと弁当をベンチに置いて立ち上がると、高鳴る鼓動を抑えて小百合に声をかける。
突然の出来事に頭がついていかず、亮人は視線を左右に動かした。
しかし、ここには、二人の他には誰もいない。
小百合は亮人に顔を合わせず、無言でうつむいて地面を見ている。
(…なに?居ない方がいい?)
気まずくなって「別んとこ行こうか?」と小百合に訊いた。
すると小百合はやっと少しだけ顔を上げて、さっきよりも小さく、静かに、声を発した。
「…松嶋ならいいよ。…ごめんね、変なとこ見せちゃったかも」
「や…別に、えと、見てないと思う」
「座ってよ。私は別に、そういうの気にしないから」
「…あ、あぁ」
亮人は再び、ためらいがちにベンチに座って小百合の方を盗み見た。
よっぽどのことがあったのか、小百合は顔を下に向けたまま、側にいる亮人を見ようとしない。
なにやらむず痒くなってきて、亮人は弁当を手に取ると、再度焼きそばを摘む。
「…ねえ、松嶋」
その途端 小百合が口を開いて、宙に浮かびかけた焼きそばが、弁当箱の端っこのスペースに落下した。