君色パレット
「ん!?なに!?」
亮人は素早く箸と弁当箱を自分の隣に置くと、小百合の方に顔をやる。
小百合は、亮人から見る限り固く口をつぐんでいたが、ゆっくりと唇を開いた。
「松嶋…私ね、付き合ってる人がいるんだけど、さ。多分さっき見ちゃったと思うんだけど、喧嘩しちゃったんだ」
小百合は力なく笑って、中庭の茶色い土を眺めている。
「…あ…うん」
亮人はぎこちなく引きつったような笑みを浮かべて、小百合から視線を逸らした。
(…倉井と、か…)
とんでもなく鋭い針で胸を貫かれたに近い痛みを覚え、深呼吸して空を見やる。
青いサテンを隙間なく引いたかのような空は優しく光を放ち、卯花高校の中庭を見下ろしていた。
「…見苦しいとこ、見せちゃったな。恥ずかしい。誰にも言わないでね?…私さ、大好きなんだ、彼のこと」
小百合は、そんな亮人の様子に気づかず、ぽつりと彼に囁く。
亮人は目を合わせず、頷いた。
でもね、と小百合は言葉を続ける。
「…彼さ、部活で忙しいんだ。私は帰宅部だから、あんまり日程とか合わないんだよ。たまには、デートしたいなー、とか思ってるけど、考えるだけ。彼は部活優先だから、我慢してたんだけど」
ここのところ、一ヶ月くらい、一緒に過ごしてなくて。
寂しくて、彼に当たっちゃった。
小百合の話を、亮人は何も言わずに耳を傾け、聞いていた。