はるのリベンジ
先生は、部屋に通されて、お酒を飲んでいる。
東行「入江殿。今日は、何か寂しい酒の席だ。」
入江「今日は、噂の新人の芸妓を頼んだんだ。凄く人気で、なかなか来てもらえないんだ。君の為に用意した。」
東行「へぇ。どこかからの引き抜きか?」
入江「さぁ?でも、初めての席には来てくれないんだが、挨拶したいんだって。」
東行「挨拶だけか?」
入江「ははは。挨拶だけで済まされてしまうかは君次第。」
東行「ふんっ。何だ、それは。」
襖の奥で、そんな会話が聞こえた。
はる「失礼します。」
緊張する。なんだか、初めて、東行先生に茶屋に連れ込まれたことを思い出す。
入江「どうぞ。」
私は、部屋に入り、すぐに頭を下げる。
はる「初めまして。梅春と申します。」
頭を上げると、サッと扇子を開き顔を隠す。
東行「梅春と言ったな?それは、無礼だ。顔を見せろ。」
はる「恥ずかしくて・・・。」
東行「初めて会って、恥ずかしいもないだろう。」
はる「あなた様とは、前に、お会いしたことがありまして・・・。」
東行「はて?初めてでない?くくくっ。では、どこの芸妓だ?当てれたら今宵、相手をしろ。」
やっぱり、私の知ってる殿方の三大女ったらしの一人だ。東行先生、小川の父、土方副長。皆、種類の違う、女ったらしだが・・・。
はる「では、当てれましたら、今宵、ご一緒致しましょう。」
入江「いやっ!た・・高杉殿。それは、止めた方が・・・。」
東行「梅春を挨拶だけで帰すかは俺次第と言ったのは入江殿だ。では・・・。雪野か?」
はる「いいえ。雪野様はあなた様のお気に入りで?」
東行「あぁ。最近は、気に入ってる。」
はる「左様で御座いますか。ふふふっ。そのお方が羨ましいです。」
入江「た・・高杉殿!降参した方が!」
東行「何を言う。負けろと言うか?」
入江「いやっ・・・。そうではなくて、ここは、おなごに花を持たせてだね・・・。」
東行「では、“このえ”か?」
入江様の助言を無視し、続ける東行先生。そして、横で青ざめる入江様。
はる「いいえ。」
東行「では・・・。」
そうして、10人ほど出た後・・・。
私はイライラしていた。どれだけ、おなごの名前が出てくるんだ。この人は・・・。
はる「もう、良いです。私の勝ちです。では、失礼致します。」
そう立ち上がると、手を握られた。
東行「待て。まだ・・って・・・。え・・この手・・・。梅?お前・・・。まさか・・はるか?」
そう言って、無理やり座らされ、扇子を退かされる。
はる「あ・・・。」
東行「はる・・・。」
懐かしい顔が、目を見開いて私を見ている。
私は、ニッコリ笑うと、『私の中の嫉妬』に気付いた東行先生は引きつった笑いを浮かべる。
東行「いやっ・・・。はる・・・。」
はる「結構で御座います。雪野様をお呼び致しますね?」
東行「待て。待て。許せ。な?まさか、お前が・・・。お前が・・・っ。」
ギュッと抱きしめられる。
東行「怪我は?大丈夫だったか?」
はる「はい。東行先生のお陰です。屯所まで乗り込んで来て下さって、ありがとうございました。」
東行「いや構わん。会いたかった・・・。」
そう言うと、東行先生は、愛おしそうに、私の頬を撫でるとまた、抱きしめてくれた。
入江様はそこで、
入江「高杉殿。梅さんに、例の事をお願いしてみては?目くらましになって良いかと思いますよ?」
高東行「あぁ。そうだな。コイツなら良い。」
はる「東行先生。お命を狙われているようで。私で良ければ何なりと。あと、お願いがあって参りました。」
すると、入江殿は、気を利かせて、帰られた。
東行「何だ?」
はる「私の復讐ですが、終わりました。拷問の犯人は・・・。芹沢達が、したとの事でした。新選組の幹部一同、頭を下げ謝って下さりました・・・。」
東行「そうか・・・。」
はる「しかし、私は、気付いています。自ら、拷問を受けて解ったのです。でも・・・。彼は、芹沢達を暗殺してくれた。だから・・・。だから・・・っ。」
涙が溢れた。
すると、東行先生は、ギュッと抱きしめて、
東行「よくやった。」
そう言って、東行先生は頭をなでた。
私は、先生から離れて、佇まいを正して、頭を下げた。
はる「東行先生。お願いがあります。私が今ここにいるのは、全て先生のおかげです。これからは、先生の為、この命を使いたい。どうか、お側に置いて頂けないでしょうか?密偵でも、暗殺でも、何でもします!先生の命なら、他の男にだって、抱かれます!だからどうか私を使って貰えないでしょうか?お願いします!!」
東行「はる・・・。お前・・・。」
はる「先生が、お命を狙われていると先生の所在を調べてる時にわかりました。どうか、お願いします!!私をお側に置いて下さい。必ず、暗殺を止めて見せます。」
東行「はる・・・。俺は、おなごに守ってもらおうとは思ってない。そんな事になったら恥だ。お前は、おなごの格好で側にいろ。今から、四国へ逃げる。お前も来い。」
はる「はい!東行先生。あの・・・。お会いしたくて、たまりませんでした。」
私は、先生に、抱きついて胸に顔を埋めた。
久しぶりの先生の香りを胸一杯に吸うと、涙が滲んできた。
頭に、口付けをされている感覚があり、「はる・・・。」と囁かれる。
顔を上げると、引かれ合うように、唇が重なった。
幾度も唇が離れては、重ねられる。
どんどん、甘くなる、口付けに、酔いしれて、夜は更けていった。