はるのリベンジ
そして、下関を脱出する。
はる「助一郎様?そのような格好も、良く似合っておられますね。」
東行「バカにしてるのか?」
はる「いえ。先生は、何を着ても、格好いいということです。」
照れながら言うと、東行先生も、少し赤くなり、腕を引き寄せられ、口付けを交わす。
はる「先生っ!」
東行「こらっ。俺は、今、先生でない。商人だ。」
はる「すみません。助一郎様・・・。」
東行「お前、よく、そんなので密偵なんぞしてたな。くくくっ。」
はる「先・・・。じゃなくて、助一郎様と一緒だと、調子が狂います。」
東行「なんだそれは。俺のせいか?」
はる「いいえ。修行が足りないんです。月隈先生にまた修行してもらいます。」
東行「もう、修行なんぞしなくていい。」
はる「それは、どうしてですか?」
東行「そんな危ない事はもうするな。」
はる「私は、助一郎様の為になることなら、何でもします!」
東行「では、おなごを磨け。その方が、嬉しい。」
はる「ある程度は出来ます。」
東行「お前は、本当に、ああ言えばこう言う。」
はる「これは、私の志です!」
東行「それを言われると何も言えん。」
はる「ふふふっ。助一郎様に口で勝ちました。」
東行「勝ってない!」
先生は、負けず嫌いだから。これ以上言うと、怒ってしまう。
私は、先生の着物の袖をくいくいと引っ張り、手をつなぐ。
逃亡生活だろうが、何だろうが、幸せだ。
でも、先生の命は、絶対に私が何があっても守る。
東行先生は、商人の変装をして、備後屋助一郎と名を変えて、四国の道後温泉に数日滞在後、琴平へ逃亡した。
日柳 燕石(くさなぎ えんせき)様という、東行先生のお知り合いに匿われ燕石様の息のかかった宿に身を置いた。
先生は毎晩、毎晩、燕石様と討論をされていた。
私は、その話を聞くのがとても好きだった。
先生の話はやっぱり面白い。
そして、先生は、潜伏している、宿で、先に逝った師や友人を想い詩を詠み続けた。
その詩を詠んで眺めている先生の顔は、何ともいえず、辛そうだった。
私は、ギュッと後ろから、抱きしめる。
はる「先生・・・。先生には、やるべき事がきっと残っているんです。だから、生かされてる。先生でないと出来ない何かがあるから、先生は・・・。」
東行「あぁ。そうだな。」
そう言うと、私の手の上に、先生は手を重ねた。