はるのリベンジ



そして、3月に父上様、母上様、奥方様のマサ様、梅之進様が来られた。



はる「皆様。お初にお目にかかります。私は、小川 梅之助と申します。先生の小姓をさせて頂いております。先生のお世話を仰せつかっています。何なりとお申し付け下さい。」




マサ「ご苦労様です。礼を言います。」



はる「勿体無きお言葉。ありがとう御座います。」



私は、部屋を出た。



ここからは、家族の時間だ・・・。



本当は一時も離れたくない。



でも、そんなワガママは許されない。




私は、交代で、先生を看病した。



東行「船は・・・いつ着く?百姓の蜂起が気掛かりだ・・・。山口へ行く・・・。」


はる「もうすぐ着きます。山口に寄るよう手配致します。」



4月に入る頃、先生はこのような譫言(うわごと)を漏らすようになっていた。




はる「東行先生・・・。春風様・・・。はるは・・・っ。先生と離れたくないっ・・・うっうっ。」








慶応3年4月13日深夜。



東行先生は逝った。



ちょうど、その時は私の順番だった。




先生は譫言で、何かを言っている。


耳を近づけて聞いてみると、



東行「はる・・・。はる・・・。」



私の名前を呼んでいる。


私は、手を握り、耳元で、



はる「春風様。私は、ここにいます。」



そう言うと、フッと笑ったような気がした。


すると、東行先生は、動かなくなった。



はる「先生?・・・。先生!先生!」



その声に、他の方達が部屋に入ってきた。




私は、すぐに場所を退く。



本当は、先生の側で泣きたい。



でも、私はあくまでも他人。



苦しい。




そして、16日の夕方に先生の亡骸は下関新地を発ち、奇兵隊陣営のある厚狭郡吉田村に着いた。



奇兵隊の皆様は、私の事を知っており、少しの間、二人きりにしてくれた。




はる「春風様・・・。愛しています。ずっと・・・。」



ギュッと抱きしめると、もう温もりはなく冷たかった。




私は、冷たい先生の唇に自分の唇を重ねる。



はる「こんな事をしたら、怒られますね・・・。すみません。」



そして、時間がきて、葬儀が始まり、先生は、土に帰られた。





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