はるのリベンジ
下関で開港、密貿易のために奔走していた矢先、密かに進めていた計画がどこかで漏れた。
長州藩の激派が俺達の暗殺を計画した。
そして、脱走の計画をしている時に、入江殿から、呼び出された。
いつもの花街の店に行くも、芸妓が一人もいない。
せっかく来たのに、これでは、寂しすぎる。
そう言うと、入江殿が『人気の新人』を手配してくれたとのことだった。
俺は、少し、胸が高鳴る。
そして・・・。
はる「失礼します。」
声を聞いた途端に、はるを思い浮かべる。この芸妓、はるの声によく似ている。
入江「どうぞ。」
芸妓は、部屋に入り、すぐに頭を下げる。
梅春「初めまして。梅春と申します。」
頭を上げると、サッと扇子を開き顔を隠す。
東行「梅春と言ったな?それは、無礼だ。顔を見せろ。」
梅春「恥ずかしくて・・・。」
早く見たい気持ちと恥じらう姿が何とも可愛いと思う。
東行「初めて会って、恥ずかしいもないだろう。」
梅春「あなた様とは、前に、お会いしたことがありまして・・・。」
東行「はて?初めてでない?くくくっ。では、どこの芸妓だ?当てれたら今宵、相手をしろ。」
はるによく似ている声で言う芸妓。こんなに似ているなら、甘い声も似ていそうだ。
春梅「では、当てれましたら、今宵、ご一緒致しましょう。」
入江「いやっ!た・・高杉殿。それは、止めた方が・・・。」
いきなり、入江殿が焦り始める。
東行「梅春を挨拶だけで帰すかは俺次第と言ったのは入江殿だ。では・・・。雪野か?」
春梅「いいえ。雪野様はあなた様のお気に入りで?」
東行「あぁ。最近は、気に入ってる。」
はるに少し、雰囲気が似てるから・・・。
春梅「左様で御座いますか。ふふふっ。そのお方が羨ましいです。」
入江「た・・高杉殿!降参した方が!」
春梅「何を言う。負けろと言うか?」
入江「いやっ・・・。そうではなくて、ここは、おなごに花を持たせてだね・・・。」
春梅「では、“このえ”か?」
俺は、思い付く芸妓の名を口にする。そして、何故か、横で青ざめる入江様。
春梅「いいえ。」
東行「では・・・。」
そうして、10人ほど出た後・・・。
ん?何故、春梅は怒ってる?
春梅「もう、良いです。私の勝ちです。では、失礼致します。」
そう立ち上がって、部屋を出ようとした春梅の手をとっさに握った。
東行「待て。まだ・・って・・・。え・・この手・・・。梅?お前・・・。まさか・・はるか?」
この手は、そうだ・・・。愛おしい女の手。無理やり座らせ、扇子を退かした。
はる「あ・・・。」
東行「はる・・・。」
やっぱり、はるだ・・・。嬉しさが湧き上がる。
しかし、はるは、怒りを含んだ目でニッコリ笑う。
あ・・・。そうだ・・・。俺は、コイツの前で、他のおなごを気に入ったと言った。しかも、沢山のおなごの名を出してしまった。
だから、入江殿は止めたのか。
今、気づいても後の祭り。
東行「いやっ・・・。はる・・・。」
はる「結構で御座います。雪野様をお呼び致しますね?」
東行「待て。待て。許せ。な?まさか、お前が・・・。お前が・・・っ。」
気持ちが高ぶりギュッと抱きしめた。
東行「怪我は?大丈夫だったか?」
はる「はい。東行先生のお陰です。屯所まで乗り込んで来て下さって、ありがとうございました。」
東行「いや構わん。会いたかった・・・。」
ずっと、心配で、会いたいと思っていたはるを感じたくて、はるの頬を撫で抱きしめた。
入江様はそこで、
入江「高杉殿。梅さんに、例の事をお願いしてみては?目くらましになって良いかと思いますよ?」
東行「あぁ。そうだな。コイツなら良い。」
はる「東行先生。お命を狙われているようで。私で良ければ何なりと。あと、お願いがあって参りました。」
すると、入江殿は、気を利かせて、帰られた。
東行「何だ?」
はる「私の復讐ですが、終わりました。拷問の犯人は・・・。芹沢達が、したとの事でした。新選組の幹部一同、頭を下げ謝って下さりました・・・。」
東行「そうか・・・。」
アイツらはそういうことにしたのか・・・。
はる「しかし、私は、気付いています。自ら、拷問を受けて解ったのです。でも・・・。彼は、芹沢達を暗殺してくれた。だから・・・。だから・・・っ。」
やっぱり、解ったか・・・。そして、自分を納得させようとしているのか。
俺は、はるを、ギュッと抱きしめて、
東行「よくやった。」
そう言って、頭をなでた。
するとはるは、俺から離れて、佇まいを正して、頭を下げた。
はる「東行先生。お願いがあります。私が今ここにいるのは、全て先生のおかげです。これからは、先生の為、この命を使いたい。どうか、お側に置いて頂けないでしょうか?密偵でも、暗殺でも、何でもします!先生の命なら、他の男にだって、抱かれます!だからどうか私を使って貰えないでしょうか?お願いします!!」
東行「はる・・・。お前・・・。」
はる「先生が、お命を狙われていると先生の所在を調べてる時にわかりました。どうか、お願いします!!私をお側に置いて下さい。必ず、暗殺を止めて見せます。」
東行「はる・・・。俺は、おなごに守ってもらおうとは思ってない。そんな事になったら恥だ。お前は、おなごの格好で側にいろ。今から、四国へ逃げる。お前も来い。」
はる「はい!東行先生。あの・・・。お会いしたくて、たまりませんでした。」
これからは、ずっと一緒におなごとして俺の横に居てくれれば良い。
久しぶりにはるを感じて、はるの頭に、口付けをした。
すると、はるは、顔を上げた。目が合い、引かれ合うように、唇が重なった。
幾度も唇が離れては、重ねる。
久しぶりに会ったはるをずっと感じていたくて、その夜は、いつもより、甘えてしまった。