はるのリベンジ
小倉城を落とした辺りから、体がいうことをきかなくなった。
俺は、戦線離脱を余儀無くされた。
引っ込んだ、白石邸には、毎日のように、勝利を告げる使者が来る。
嬉しい反面、自分もその場にいたかったという、寂しさもある。
体調が良かったある日、俺は、はるを連れて、松陰先生の墓参りに来た。
東行「先生・・・。」
俺は、今の近況報告をした。
東行「必ず、勝てます。そして・・・。幕府は滅びる・・・。そしたら、新しい世界です。・・・先生。」
報告後、墓の前で、酒を飲んだ。
そして、今度はいつになるかわからないが、「また、来ます。」と、墓を後にした。
そして、もう一つ、行かねばならぬ所。
はるが育った村に来た。
凄くのどかで、今のはるの状況からは想像出来ない。
本当に、俺が変えてしまったんだなと思う。
抱き合っていると、男が、はるを呼び止めた。
はる「武五郎様・・・。」
武五郎?あぁ。確か、はるに文を書かせて別れさせた相手か・・・。
何も無かったらコイツと祝言を挙げて、夫婦になっていたのか・・・。
そう思うと、心に黒い感情が流れる。
しかし・・・。
この男の気持ちもわかる。
俺は、男に牽制するつもりで、はるの額に唇を押し当てる。
武五郎「っ!」
そして、俺が促すと、少し離れていく。
しかし、はるは、俺が、見えて、しかも、襲われても、すぐに対処出来る所で止まった。
東行「ふっ。こんな時に二人でコソコソ隠れられたら、何か武五郎への気持ちが残っているのかもと思ってしまうが、無さそうだ。」
少し安堵し、座って、持ってきた本を読んでいた。
すると・・・。
何か騒ぐ声が聞こえて、そちらを見ると、武五郎にはるが抱きしめられているのが目に入る。
東行「なっ・・・。アイツ・・・。」
はるに触れるのは、許せねぇ。
そして、前に行こうとすると、はるが、武五郎の腕を払いのけ、抜刀し、殺気を纏っている。
はる「これ以上、先生のことを言うなら、斬ります。」
なるほど。俺がいなくなった後のことで、口説いてやがったのか・・・。
俺は、はるの後ろから、優しく抱きしめる。
東行「それは、ダメだろ?しまえ。」
はるは、渋々、刀を鞘に収める。
東行「武五郎。俺が居なくなったら、コイツに言い寄るか?でもな。コイツに言い寄る男は、他にもいる。俺は、コイツが笑える場所ならどこでもいい。お前が、他の奴よりもはるを幸せに出来るならお前でも構わない。じゃあな。はる、帰るぞ。」
本当は、嫌だが、はるを一人にしたくない。はるが幸せで笑ってるなら。こいつの横でも・・・。
はる「先生!今のはどういう事ですか?私は他の所になんて行きません。」
東行「じゃあ、尼になるか?それとも、死ぬのか?どっちも許さねぇ。そんなものちっとも面白くない。いいか?よく聞け。俺は、もうすぐこの人生は終わる。でも、俺と一緒にお前は、終わらせるな。お前の心が動いた奴と一緒にいろ。例え敵であっても・・・だ。わかったな?」
はる「わかりません!先生のいない世の中なんて・・・。」
東行「はる・・・。愛している。本当はお前を幸せにしてやりたかった。でも、俺に、残された時間は少ない。でもな。お前は、絶対、尼になることも、死ぬことも許さない。わかったな?」
はる「先生・・・。私も愛しています。先生と離れるなんて、考えられません!だから・・・。居なくなるとか言わないでっ・・・。ふぐっ。・・・っひっく。」
泣くはるを、俺は、抱きしめて、唇を重ねた。
本心だ。
こんなに、面白い奴をそうそう尼になんてさせたくない。しかも、俺がいなくなったら、切腹でもしそうな勢いだ。
愛の言葉で、互いの気持ちを伝え合う。
コイツを一人にさせてはいけない・・・。
そんな、気持ちが沸き起こり、俺は、はると、関係があると思われる所に、文を書く。
武五郎にも、少し、悩んだが、出すことにした。おマサへの遺言書に自分の髪の毛を梅之助へ渡すようにと残す。
女々しいが、一緒にいたいという気持ちだ。
そして、新選組にも・・・。多分、俺がいなくなった後のはるを助けるのは、こいつらだろう。