はるのリベンジ
しばらくして、俺は死の淵をさ迷った。
もう、長くはない。だが、はるの側を離れたくない。
他にも、藩主が朝敵のままだ。復権を見届けたい。エゲレスに行きたい。
色々と、したいことが山ほどある。
でも・・・。
体はいうことをきかない。
何とか、死の淵から這い上がった俺の耳に、 野村 望東殿が勤王攘夷の奴らに流されたと聞いた。
すると、すかさず、はるが行くと言ってくれた。
“こういう事が得意”なはるに託す。
そして、数日後に、無事に帰ってきた。
信じてはいたが、やはり、顔を見て、初めて安堵する。
戦に出て行った夫を待つおなごの気持ちとはこういうもか・・・。とクスリと笑う。
はるに、遣いを頼み、下関まで行かせた時、野村殿と二人きりになる。
野村「谷殿には、良いおなごに恵まれていますね。」
そう言って、ふふふと笑っている。
東行「あぁ。そうだな。」
野村「奥方様は、知っているのですか?」
悪戯を企てる顔をした野村殿に、はぁ・・・。と大きな溜め息をつく。
東行「言ってません。この前、バレそうになって逃げました。まぁ。はるにはバレましたが・・・。」
野村「あの子だったら、引いたでしょう?」
東行「えぇ。アイツは、俺を苦しめる事はしない。」
野村「ふふふ。お互いに想い合っているのですね。でも・・・。尼になることを許して差し上げないのですか?」
尼である野村殿だからこそか・・・。
東行「アイツに助けて貰ったときに思いませんでしたか?尼になったら、勿体無い。」
野村「それは、戦を好む男の考えですね。」
確かにそうだ・・・。でも、尼になって俺を、ずっと想ってくれているのも嬉しいが、きっと他の場所でも、はるは、俺を想ってくれる。たとえ他の男の所に行っても・・・。
そして、だんだん、夢か現実か区別が曖昧になってくる。
しかし・・・。わかる。
はるがいるかいないか・・・。
はる・・・。俺は、お前に会えて、幸せだった。この人生では、少ししか一緒にいれなかった。
お前とは、まだまだ色々したいことがある。
一緒に、エゲレスに行く。
世界中を旅するのも良いかもしれない。
夫婦になりたい。
こんな、乱世ではない時代で、幸せになりたい。
お前の笑顔をずっと横で見ていたい。
はる・・・。
『春風様・・・。私は、ここにいます。』
あぁ。そうだ・・・。いつも、隣にいてくれる。
愛している・・・。
そして、俺は、眠りについた・・・・・・・・・・・・。