はるのリベンジ
そして、松本 良順先生の所へ診察に行く。
松本先生は、沖田組長の肺辺りを隈無く音を聞いていた。
そして、耳に当てていた道具を私に渡す。
松本「君も医術を学んでいるんだろう?聞いてみなさい。」
私は、震える手で道具を受け取る。
そう・・・。私は、東行先生の時に勉強のためだと言われ先生の肺の音を聞いていた。
一緒だったら・・・。
すると、沖田組長が、おどけた声で促す。
沖田「聞いてみて?もしかしたら今までに聞いたことのないような音がするかもよ?お囃子(はやし)とか鳴ってたりして。」
はる「だったら、沖田組長の体の中は祭ですね。」
私も、深刻にならないよう冗談で返す。
ゴクリと唾を飲み込み、道具を使い沖田組長の胸の音を聞く。
肺の音を聞いた。
・・・・・・・・・・・・東行先生と同じ音だった。
はる「えぇ!?沖田組長!本当に、お囃子が聞こえるんですけど!」
沖田「でしょう!?だから言ったじゃない!」
私、笑えてる?
きっと、本人が、一番不安で、怖いはず・・・。だから、私が泣いたらダメだ。
絶対、助けるんだ!治し方を見つけてみせる!
私達は、松本先生の診療所を後にし、甘味処へ来た。
そこで、甘味を食べたが、味など覚えていない。
そして、手をつなぎ、河辺に来て腰を下ろす。
沖田「私、労咳だったでしょ?」
私は、沖田組長の目を見つめた。
はる「どうして?」
沖田「自分の体だし、それに・・・。先生の話し方で。」
はる「そっか。『聞いてみるか?』ってそういう意味ですもんね・・・。」
沖田「夫婦になるのやめようか・・・。ここままじゃ、おはるちゃんを一人にしてしまうかも・・・。」
はる「何、言ってるんですか!私が、治し方を見つけますから!だから・・・。だから・・・っ。」
泣いてはダメ。
そう思うのに、涙は勝手に流れてくる。
沖田「夫婦に・・・。なってくれるの?」
はる「はい・・・。もちろんです。」
すると、沖田組長は、私を抱き寄せて、顔が見えないようにして嗚咽して泣き始めた。
私は、沖田組長の背中に腕を回して、ずっと、彼の背中をさすっていた。
辺りが暗くなり、お互いの顔も近づけないとわからなくなった頃、ようやく、腕の力が弱まった。
沖田「帰ろっか・・・。」
はる「はい・・・。って、門限・・・。」
沖田「あ・・・。今日は、外泊届け出してないや・・・。」
はる「えぇ!?では、帰ったら鬼ごっこ・・・。無理かも・・・。」
沖田「私もー。お腹空いたなぁ・・・。」
恐る恐る帰ると、鬼は、島原へ行ったらしく、怒られる事はなかった。
沖田組長は、巧みに細工をし、外出許可を得た事にしてくれていた。