はるのリベンジ
そして、松本 良順先生の所へ診察に行く。
松本先生は、私の肺辺りを隈無く音を聞いていた。
そして、耳に当てていた道具をおはるちゃんに渡す。
松本「君も医術を学んでいるんだろう?聞いてみなさい。」
この言い方は師が弟子に言う言葉。その事例を勉強させるため。
自分だって、剣術の師範だ。医術でも、剣術でもその辺りは同じ。
・・・。ということは、私は、労咳か・・・。
不治の病に自分が罹った。その宣告をたった今、受けたのだ。
おはるちゃんは、震える手で道具を受け取る。
私は、深刻な顔をしているおはるちゃんに、おどけた声で促す。
沖田「聞いてみて?もしかしたら今までに聞いたことのないような音がするかもよ?お囃子とか鳴ってたりして。」
はる「だったら、沖田組長の体の中は祭ですね。」
おはるちゃんは、深刻にならないよう冗談で返した。
おはるちゃんは、ゴクリと唾を飲み込み、道具を使い私の胸の音を聞く。
しばらく聞いてきたおはるちゃんの身体がピクリと動いた。
やっぱりそうか・・・。確信した時だった。
はる「えぇ!?沖田組長!本当に、お囃子が聞こえるんですけど!」
沖田「でしょう!?だから言ったじゃない!」
少し震える声で、おはるちゃんは、冗談を言った。
私達は、松本先生の診療所を後にし、甘味処へ来た。
おはるちゃんは、どこか上の空だ。
そして、手をつなぎ、河辺に来て腰を下ろす。
沖田「私、労咳だったでしょ?」
私がそう言うと、少し驚いていた。どうして、わかったのか?と。
はる「どうして?」
沖田「自分の体だし、それに・・・。先生の話し方で。」
はる「そっか。『聞いてみるか?』ってそういう意味ですもんね・・・。」
沖田「夫婦になるのやめようか・・・。ここままじゃ、おはるちゃんを一人にしてしまうかも・・・。」
幸せにしてあげたいのに、悲しませてしまう。しかも、谷と同じ病で。彼女にとったら、酷すぎる。
はる「何、言ってるんですか!私が、治し方を見つけますから!だから・・・。だから・・・っ。」
おはるちゃんは、泣きながら、私の言葉を否定してくれた。
沖田「夫婦に・・・。なってくれるの?」
はる「はい・・・。もちろんです。」
本当は、自分から、断らなくてはいけないのに、迷いのないその答えが嬉しくてたまらなかった。
私は、彼女に、しがみつき泣いた。男のくせに情けないが、色々な感情が爆発してしまった。
今まで、不安で見ないフリをしてきた事が現実になり、どうして自分なんだという怒り。武士としてではなく、病で死ぬかもという不安と悔しさ。近藤先生の為に最後まで戦えないかもしれないという不甲斐なさ。不治の病を患った私と、夫婦になってくれると言ってくれた、おはるちゃんへの愛しさ。
全てが心の中でぐちゃぐちゃになり、涙に変わりこぼれ落ちていく。
辺りが暗くなり、お互いの顔も近づけないとわからなくなった頃、ようやく、気持ちが落ち着いた。
沖田「帰ろっか・・・。」
はる「はい・・・。って、門限・・・。」
沖田「あ・・・。今日は、外泊届け出してないや・・・。」
はる「えぇ!?では、帰ったら鬼ごっこ・・・。無理かも・・・。」
沖田「私もー。お腹空いたなぁ・・・。」
あくまで、普通に接してくれる彼女に感謝した。