はるのリベンジ
そして、9月18日。
新選組は島原の角屋で、大宴会が行われた。
私の顔を見せると気分も悪くなられては困ると言い、非番を頂いた。
私は、小川の父の家に行った。
はる「父上。おなごの格好で行って見てきます。」
小川「あぁ。誰かに見られたら、急病に手伝いで駆けつけたという事にしたら良い。」
はる「ありがとうございます。」
そして、刻々と時は流れて真夜中・・・。
はる「そろそろ行ってきます。」
小川「あぁ・・・。」
ギュッと、小川の父は、私を、抱きしめる。
小川「気をつけて行ってこい。」
はる「ありがとうございます。行ってきます。」
私は、薬箱を抱え、提灯に火を灯す。
戸を開けて出ると、雨が降っていた。
はる「雨か・・・。足跡が残らなくて良い・・・。」
私は、布を、頭から被り、雨の中、走り出した。
はる「はぁ・・・。はぁ・・・。ここを曲がったら、近道っ・・・。」
ドンっ。
はる「キャッ。」
誰かにぶつかり、提灯と薬箱を落としてしまい、尻餅を付く。
ドタドタと数人が、向こうに走っていった。
「すみません。大丈夫ですか?」
はる「ありがとうございます。あっ。」
沖田「っ!」
上を向くと、提灯が燃えていく中の灯りで相手の顔が見えた。
沖田助勤!!!・・・。って怪我してる!
私は、とっさに、落ちた傷薬を、手に取り、灯りが消えてしまう前に、沖田助勤の鼻と口の間にできている傷に薬を塗った。
はる「私は、医者の娘です。お怪我をされているようですので、薬を・・・。これ、どうぞ。」
そう言って、薬を手渡す。
沖田「あ・・・。ありがとう。」
至近距離で見つめられるが、提灯が燃え尽き辺りが暗くなる。
沖田「あ、あのっ・・・。」
沖田助勤が、何かを言おうとしたとき、向こうの方で、
「おい!何やってる!?」
と、土方副長らしき人の声がした。
沖田「行かなきゃ。それでは、ありがとう。」
はる「いえ。お大事に。」
そう言うと、沖田助勤は、走っていった。
はる「私も行かなきゃ。」
私は、八木邸に走った。
八木邸に着くと、大騒ぎになっていた。
そっと、侵入する。
怖いのだろう。
部屋には、誰もいない。
私は部屋に足を踏み入れる。
乱闘になったことは、見ただけでわかるほどだ。
私は、褥から出ていた足を見つける。
褥を、めくると、ズタズタに斬られた、芹沢隊長の姿があった。
はる「これじゃ、私の出る幕なんてない・・・。」
私は、小刀で一度だけ、芹沢隊長を斬る。
はる「やっぱり、お酒で身を滅ぼしましたね・・・。」
すると、表の方で、近藤局長の声がした。
私は、物影に隠れる。
すると、近藤局長と数名の隊士が、周りを見渡して、調べている。
そこに、土方副長も来た。
着替えて慌てて来たって感じだな・・・。
土方「怪しい者は、来なかったですか?」
あんただよ。あの、八木邸の奥様も気づいてるし。
私は、その場からそっと抜け出した。
雨に打たれながら、小川の父の家に帰る。
小川「お帰り!無事で何よりだっ!」
安堵して気が抜けて、涙が溢れてきた。悔しい。
自分の手で、仇を討てなかったのがとても悔しかった。
はる「父上・・・っ。私が行ったら、もう、ズタズタだった・・・。中は・・。荒れてて・・・。乱闘だったみたい・・・。あの人達だったから・・っ出来たんだと思う・・・。ふぐっ。・・・ふっ・・。私じゃ・・・きっと返り討ちになって・・。」
泣き崩れた私を、小川の父は、抱きしめてくれた。
小川「結果的に、アイツ等は終わったんだ。だから・・・。」
はる「私、もっと強くなる。そして、今度こそ、自分の手で、仇を討つ!」
小川「はぁ・・・。本当に、お前は・・・。」
はる「そろそろ、帰ります。朝の稽古までに帰らないと・・・。」
私は、梅之助に戻り、暗い夜道を歩く。
傘は高いから、買えない。布を被るも、この雨では意味がない・・・。
ずぶ濡れで、屯所に着いた。
ヒタヒタと音をさせ、部屋に、戻ろうと歩いていると、襖がいきなり開いた。
はる「あ・・・。土方副長・・・。」
土方「っ!?・・・。お前、どうした!?ずぶ濡れじゃねぇか!」
そう言うと、手拭いで頭を拭いてくれた。
この人達が、この手が、父上の敵を討ってくれた。
そう思うと同時に、頭に置かれていた手を取ってギュッと握っていた。
土方「おまっ。冷てぇ・・・。」
土方副長の背中に腕を回しギュッと抱きしめた。
はる「濡れてしまう事、お許し下さい。ありがとうございます・・・。」
土方「おいっ。どしたっ・・・・・。」
私は、涙が、また溢れてきた。
すると、土方副長が、私の頭を、自分の胸に押し当てた。
土方「男に普通、こんな事しねぇが、今日は特別だ。」
そう言うと、優しく頭を撫でてくれた。
すると、
「何やってるんですか?」
その声に、バッと土方副長は、私を離した。
そこには、沖田助勤が立っていた。
沖田「へぇ。土方さんって、そっちの趣味も・・・っ。ってどうしたの!?梅ちゃん!!」
ずぶ濡れになって、泣いているのがわかったのか、沖田助勤は、すぐに駆け寄ってきた。
沖田「どうしたの!?もしかして、土方さんに何かされた?」
私は、首を横に振る。
沖田「大丈夫だよ?何かされたなら言って?私が、斬ってあげるから。」
土方「何もしてねぇよ。」
私は、今度は、沖田助勤に抱き付く。
沖田「おわっ。・・・って、どうしたの?梅ちゃん」
土方副長と、沖田助勤が目配せして、沖田助勤が、私を、部屋に招き入れてくれた。
行灯に揺らめく優しい灯りで、沖田助勤の顔が照らされている。
はる「あ・・・。沖田助勤・・・。怪我してます。手当て・・。」
そう言って、手を伸ばすと、沖田助勤は、赤くなって拒否した。
沖田「だ、大丈夫。く、薬塗って貰ったし、それに・・・。とにかく大丈夫!」
はる「そうですか?また、痛むようなら言って下さい。」
沖田「う、うん。ありがとう。」
そう言えば、薬も塗ってあげたし大丈夫だろう。
すると、沖田助勤が、手拭いと、沖田助勤の寝間着を出してきた。
沖田「こんな夜中に、部屋に帰ったら迷惑でしょ?今日はここにいたらいいよ。」
そして、私が、寝間着に着替えると、沖田助勤が手拭いで私の頭を拭きながら話す。
男同士だから何も言えないけど、じっくり着替え見てたよね?
沖田「そのサラシ、寝てるときも付けてるの?」
はる「はい。」
沖田「苦しくない?寝てるときまで・・・。」
はる「いえ。大丈夫です。」
沖田「なら良いけど。」
そして、髪を拭き終わると、沖田助勤は、ポンと私の頭に手を置いた。
今日の私は、この人達の手に反応してしまう。
私は、沖田助勤に抱きついた。
すると、沖田助勤は、ギュッと抱きしめ返してくれる。
はる「ありがとうございます・・・。ありがとう・・・。」
沖田助勤の胸に顔を埋めて、しばらく、抱き合う。
沖田助勤の温かい腕の中でいつの間にか眠ってしまった。