はるのリベンジ



そして、私と沖田助勤の非番が重なった日。


朝から、物凄く、騒がしかった。


沖田助勤は、何度も、湯浴みをしていた。


そして、


沖田「ねぇ。梅ちゃん!臭くないかなぁ?」


はる「大丈夫です。」


沖田「着物はこれと、こっち、どっちがおはるちゃん好きかなぁ?」


はる「何でも良いと思います。」

沖田「ねぇ!聞いてる!?おはるちゃんの好みを教えてよぉ。」



はる「いや、別に、何でも良いと思いますよ。何を着ても似合ってますよ?」


沖田「エヘヘ。照れるよぉ。」


そう言ってバシバシ、腕を叩かれる。


沖田「じゃあ、これにしよ。あとさぁ、髪の毛どうしようかなぁ。髷にしようかなぁ。ねぇ、梅ちゃん!」


はる「何でも」

沖田「『良い』って言ったら斬るよ?」


ギロリと睨まれる。



はる「沖田助勤は、いつも通りでも格好いいと思いますよ?」


沖田「ふふふ。じゃあ、いつもので行こうっと。」



終始こういった感じだ。



今日、拷問の事は、聞けたら聞く。



私と、沖田助勤の温度差は、天と地ほどある。



そして、私達は、待ち合わせの場所へ来た。


はる「では、ここで待っていて下さい。俺は、おはると手伝いを交代するのでもう来れません。」



沖田「なんか、心細いよぉ。」


はる「俺は、人の逢瀬の邪魔はしたくありませんよ。」



沖田「逢瀬・・・。ふふふ。・・・。わかった。ありがとう。」


はる「では。」



そう言うと、私は、小川の父の家まで走る。


そして、家に着く。家に着くと、傷の薬を貰う。



小川「大丈夫か?顔色、良くないぞ。」


はる「最近、ちょっと食欲なくて・・・。」


ギュッと肩を掴まれ、向かい合わせに座らされる。



はる「あの・・・。父上。私、もう出ないと。」



小川「症状を言え。」


はる「えーっと・・・。空腹と、満腹になると吐き気がします。あと、体が重い。眠い。」


小川「お前、それって・・・。」



はる「早く行かないと!すみません!父上!もう行きます!」


小川「お前!体を大事にしろ!酒を飲むな!次の非番の時、必ずここに来い!わかったな?」


小川の父の言葉を背中で聞きながら走る。


今度は、片桐の所に行く。



はる「片桐っ!宜しく!」



片桐は、私を“逢瀬に行くおなご”の格好にしてくれた。



そして沖田助勤との待ち合わせの場所へ行く。



すると、沖田助勤が、私に気づいてこちらに走ってくる。



沖田「こんにちは。今日は来てくれてありがとう。」


はる「いえ。こちらこそ。あの・・・。弟の梅之助がいつもお世話になっております。」



沖田「こちらこそ。私の方こそ、色々と助けてもらってます。あのっ。甘味、好きですか?」



はる「はい。好きです。」


そして、私達は、沖田助勤の馴染みの甘味処ではなく、少しお高い甘味処へ入った。


へぇ。沖田助勤ったら、奮発しちゃって。


沖田助勤、そういえば、見廻りの時、何度もここに寄ってたな。



個室の洒落た部屋に通される。


そして、上品な菓子が、運ばれて来た。


二人きりになって菓子を食べる。


はる「美味しい!」


沖田「本当?良かった!口に合って。」



菓子も食べ終わる頃、沖田助勤は、私の手を掴んだ。


沖田「あのっ!私を助けて下さってありがとうございました!先日も、この傷の時も。先日に至っては、あなたの・・・。その・・。その・・。せ・・せ、接吻があったから生き返れたようなものです。」


私、梅之助は、看病を頑張りましたけど?



はる「そんな・・・。あの時は、すみませんでした。とっさの事とはいえ、意識のない方に口移しを・・・。」


沖田「いえ!私は、あの接吻で、意識が戻ったんです。ありがとうございました!あと、初めて会ったときも、助けて頂いた。あの・・・。梅ちゃんから、想いが重なってる方がいると聞きました。それは、桝屋の旦那ですか?」


桝屋?



疑問に思ったのが伝わったのか、沖田助勤が答える。



沖田「桝屋に奉公されてる姿を見まして。それで、桝屋の旦那と出掛けるところを見かけたのです。だから・・・。」



あぁ、そういう事か。それにしても、沖田助勤のこういう姿、全く見たこと無いから新鮮だ。


はる「ふふっ。あ・・・。すみません。桝屋の私は梅之助なんだと思いますよ。」


沖田「え?」


はる「内容は言えないが、あれは、おはるではないことを言ってくれと言われました。これで、わかりますか?」


沖田「はいっ!これで、心配事が一つ減りました!あの・・・。では、想いの重なる人って・・・。」



はる「ちょっと言い表せないんです。恋仲でもないし・・・。でも、友人というわけでもありません。」


沖田「そうですか・・・。」


はる「あの。沖田様。これは、お勤めの事で、私が立ち入る事ではないかと思うのですが、心配で・・・。」


沖田「何ですか?」


はる「よく、新選組に、捕縛されて行かれる方を見るのですが、その、拷問とかに弟は、携わっているのでしょうか?」


沖田「え?」


はる「人を斬るのは仕方のないのかもしれませんが、拷問は、喋らす為に、人を痛めつける行為でしょ?そういった事に弟は、関わっているのでしょうか?」


うるうるとした目で、沖田助勤を見つめる。



沖田「あまり詳しくはお話し出来かねますが平隊士の梅ちゃんは、それには携わりません。」


はる「そうですか・・・。では、沖田様は・・・。」



すると、ニコッと微笑まれる。これ以上、聞いてくれるなと目が言っている。





なるほどね。幹部は関わっている。


すると、沖田助勤が、お芝居に誘って来た。




私達は、お芝居を観る。



はる「素敵でしたね。」


お芝居なんて、初めて見た。



出る頃には、夕暮れ時だった。



沖田「あのっ!これから、酒でもどうですか?」


はる「あ・・・。でも、梅之助は、門限があるから夕刻には帰ってきて欲しいと・・・。」


沖田「それなら、大丈夫!外泊許可を取っておいたから!」



はる「外泊?」


沖田「あ・・・。いやっ。違うんです!ハハハハ。」



襲う気だったんですね。


でも、もう、内容は聞けたし・・・。酔わせれば、もっと聞けるか?



しかし、危険が伴う。



私は先日の宴会の時の事を思い出す。



あの時は、はるに言いつけると言って止まったが、今回は、止まらないだろう。



こんな好機もうないかもしれない。行こう。酔わせて、尋問する。



私は、ニッコリ笑う。


はる「お酒、良いですね。」



沖田「本当に!?」


はる「はい。今日は、沖田様の連れて行って下さる所が楽しくて、次も興味が出ました。」



沖田「やった!!あ・・・。ハハハハ。」


恋すると、この人は、可愛くなるんだなぁ。


そして、着いた先は、角屋の多分、良い部屋だ。



芸妓を呼んで、踊りを見たりするも、すぐ、二人きりになった。


よし!ここからが勝負だ。




私は、次々とお酒を注いだ。



私の貞操と尋問は、どれだけ酔わせれるかにかかっている。




そして、ついに、その時は来た。




はる「沖田様。先ほどの話しですが。」



沖田「さきほろの話しぃ?なぁに?」


はる「拷問に梅之助は関わってなくて、あなたは関わってる。」


沖田「へへへ。おはるちゃんは、鋭いね?」



はる「拷問は、その人によって違うんですか?」


沖田「うーん。やり方は人それぞれだよぉ。だいたいは捕縛した者がするんだけど、どうしても、吐かない時は、鬼が出る。」


はる「鬼?」


土方副長か。


沖田「うちには、こわーくて女ったらしの鬼がいるんだ。おはるちゃん!気をつけてねぇ。可愛いから心配だよぉ。」


そう言うと、沖田助勤は、抱きついてきた。




そして、雪崩のように押し倒される。


沖田助勤は、ジッと私を見つめて、


沖田「おはるちゃん・・・。私とここへ来た意味は?」



はる「え?」


沖田「私は、あなたを好いています。あなたに、心が重なった相手がいると知っていますが、必ず、振り向かせてみせます。男が、おなごの尻を追うなんてと思うかもしれないが、そんな事が気にならないほど、あなたを好いてる。」



すると、沖田助勤は、私の顎を掴み、唇を重ねた。



この前、天井裏から見たのは、これだったんだ!



幾度も唇を重ねられる。



『沖田に抱かれろ』



東行先生の言葉を思い出す。


でも、抱かれたら、沖田助勤は、期待する。もう、期待してるか・・・。




口付けがだんだんと深く甘いものに変わってくる。



そして、帯締めに手をかけられる。



ダメだ。やっぱり出来ない。



私は、帯締めに手をかけた沖田助勤の手に自分の手を重ねて止める。



はる「止めて下さ・・・っ。」



そう言う私の言葉を飲むように、口付けで塞がれる。



はる「私の身体が目当てですか?」



その言葉に、沖田助勤は、反応した。


沖田「っ。違っ!」


はる「だったら、止めて頂けますか?」



沖田「・・・。わかりました・・・。」



そう言うと、沖田助勤は、もう一度、また、しばらく、私に口付けをして、私の上から退いた。


沖田「今日は、焦ってしまい申し訳ありませんでした。貴方のことは決して、身体目当てとかでは、ないんです。また、会って貰えますか?」



はる「私には、慕っているお方がいます。ですので・・・。」


もう、会わない方が良い。



沖田「それでも、良いんです。お願いしますっ!」


真剣に頼み込む、沖田助勤の姿に、胸が、掴まれたように痛い。



はる「わかりました・・・。」


私は、無意識に、次も会うと約束していた。




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