元教え子は現上司
奪う、奪われる
「おっはよ~ひぃちゃん」

 フカミンが軽快な口調で言うと、ショルダーバッグを投げつけるように勢いよくデスクに放った。弾みで美少女フィギュアが碧のデスクに転がり込む。
「おはようございます」
 フィギュアを拾い上げると、俯いて呼吸を整える。平常心、平常心。心の中で唱える。この同僚は見た目と裏腹に、妙に鋭いところがあるから――。

「あっれー、ひぃちゃんなんかあった?」
 予想通り、フカミンはかがみこんでこちらをのぞきこんで来た。ギクリと体が強張る。
「な、なんでですか。なにもありませ」
「おっはよーございまーす!」
 そこにユナが割って入ってきた。目が合うと、ニコッと笑いかけてくる。美人は笑うと三割り増しだ。通りがかりの社員も、ぼうっとした顔でユナを見ている。
「ひぃちゃん、リーダーは?」
「あ、なんか行くとこあるって、さっき」
 さっき――。



< 50 / 86 >

この作品をシェア

pagetop