エリート室長の甘い素顔
 動揺して慌てる悠里を振り返り、大谷は呆れたように言った。

「違わねぇよ。言っただろ、わかってねーのはお前のほうだって」

「えぇ?」

 悠里が情けない声を出して大谷を見つめ返すと、そこで母がこう問いかけた。

「悠里は? 大谷さんのこと本当に好きなの?」

 困惑した母の顔を見て、悠里は思わず叫んだ。

「好きだよっ! ずっと好きだったのは私のほうだもん!」

 母と弟は目を丸くする。


「だってあなた……お見合いするときにそんな相手いないって言ってたじゃないの!」

 母が怒った顔でそう言うと、弟が慌てて仲裁に入った。

「ちょ、母ちゃん……ねえちゃんの性格的に、言えないのは仕方ないだろ」

「何が仕方ないの! こんなことになって……安藤さんはどうするのよっ」


 すると背後でリビングの扉が開き、いきなり雪枝おばさまが顔を出した。

「何事なの、これは?」

 そしてなんと、その後ろから顔を覗かせたのは、張本人の安藤だった。

「お邪魔してます……。雪枝さんが構わないとおっしゃるので、勝手に失礼しました」


 悠里だけでなく、母も弟も安藤を見て、顔を引きつらせ固まる。

 大谷だけが、じっと厳しい顔をして彼の姿を見据えていた。

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