エリート室長の甘い素顔
 再び、雪枝おばさまと母は驚いた顔で安藤を振り返った。

「なんとなく……悠里さん自身が行動に出ることはなさそうだったので、ゆっくり距離を詰めていけば、いつか受け入れてくれるんじゃないかという希望がありました。でも彼のほうから積極的に来られたら完敗です」


 安藤は軽くため息を吐き、最後に悠里を見た。
 その顔には穏やかな笑みが浮かぶ。

「おめでとう、悠里さん。良かったね。君がちゃんと幸せになってくれるなら、僕も負けた甲斐があるよ」

 彼はそう言って、手に持っていた土産物を雪枝おばさまに渡した。

 そして軽く頭を下げると、スルッと自然にリビングを出ていく。

 去り際までスマートで、悠里は呆けていたが、すぐにハッとして立ち上がった。

 そして玄関に向かい、安藤を追いかける。


 ちょうど靴を履いたところで、彼が悠里の足音を聞きつけて振り返った。

「安藤さん……あの……」

「颯介から聞いてたんだ、大谷さんのこと」

「……え?」

(宮村さん?)

 悠里が目を丸くすると、安藤はふっと笑った。

「『普段のらりくらりしてるけど、いざという時には彼が一番頼りになる。実は怖い人だけど尊敬してる』って。颯介にそんなことを言わせる相手を、敵に回したくないからね。彼が出てきたなら潔く引くよ」

 悠里は何と言っていいかわからずに、じっと安藤を見つめた。

「ちゃんと幸せになってね。自分からそれを手放しちゃダメだよ。また君たちとは会うことになるだろうけど、笑顔で再会できると嬉しいな」


 玄関のドアを開け、安藤は爽やかな笑顔で「じゃあね」と言って去っていった。

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