エリート室長の甘い素顔
   ***

 遅くなった昼食を家で食べ、悠里は大谷と一緒に病院に向かう。

 父にも挨拶がしたいと大谷が言い、母は少しだけ涙ぐんでいた。


 父は先日ICUから出て、一般病棟の個室に入っている。

 常に管や計器類に繋がれて、起きてはいても視線の噛み合わない父の姿は、目にする度に胸を絞られるような痛みが襲う。


 ベッドの脇に寄り添い、父の手を握った。

 脱力し、自力で動かすことは出来ずにいる。

「お父さん……」

 声を掛け、少し冷えているものの温もりは失わずにいる大きな手を撫でた。

 そして、悠里のすぐ脇に立った大谷を見上げる。

「大谷さんだよ……私の、好きな人だよ」


 大谷は黙ったまま、じっと父の顔を見つめていた。

「私……結婚、できるかも」

 悠里がそう話しかけると、大谷が顔をしかめた。

「あ? なんだよ『できるかも』って。するんだろ」

 悠里は少しだけ照れくさそうに身をよじる。

「……だって、こんなことになってずっと、もう結婚は出来ないなぁって。安藤さんとだって、最後まで結婚するつもりはなかったし……」

「ふーん……でも、俺とは結婚するよな?」

 顔を覗き込まれ、悠里は頬が熱くなるのを自覚しながら、小さくうなずいた。

「本当に、私でいいなら……」


 大谷は悠里の肩を抱き、屈んで顔を近づけてきた。

(え、ここで?)

 父の前では無理だと、悠里が慌てて彼の顔を手で押さえようとしたら、その手をくっと軽く引かれた。

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