エリート室長の甘い素顔
「大谷さん」

 悠里が呼びかけると、大谷は「ん?」と振り返った。

 繋いでいた手はそのままに、腕に頬を擦り寄せると、何を思ったのか大谷はその腕をぐいっと高く持ち上げた。

「ひゃっあ!?」

「昔、親父にやってもらわなかったか? こうやって腕にぶら下がって」

「いやっ、今は無理無理無理!」

 手を繋いだままのせいで、悠里の足は半分地面から浮きかけている。

「はははっ! 理子はまだ余裕でぶら下がってるぞ」

「小学生の体力と比べないでっ!」


 文字通り大谷に振り回されながら、二人はまた悠里の実家に戻った。

 帰るとなぜか近場に住む親戚一同が集まってきており、皆が食べ物や酒を持ち込んで家のリビングと続きの和室が宴会場のようになっていた。


 悠里は母やおばたちと共に裏方へ回り、グラスや氷を出したり、皿をこまめに片付けたりする。

 一方の大谷は宴会の中心に座らされ、気が付けばあっという間にその場に馴染んでいた。


 皿とグラスを回収に行くと、おじ達に囲まれる。

「悠里ちゃん、いい男つかまえたじゃないの」

「ほら、悠里ちゃんはキャリアウーマンだからさー。もう結婚なんかしねえのかな~って、なあ?」

「そうそう。結婚するって聞いたら、角の金物問屋の倅が泣くぞ」

「あー、あいつ昔っから悠里ちゃんに惚れてっからな」

「自分はとっとと今の嫁さんにつかまったくせによぉ」

「泣く泣く、ぜってー泣く。賭けてもいい」

「やめとけ、そもそも賭けが成立しねえよ」

 豪快な笑いが広がって、悠里は苦笑しながら立ち上がった。

 大谷は自ら騒ぎはしないものの、飲まされたりあれこれ質問されたりしながら、絡んでくるおじ達を上手い具合にあしらっていた。


 この家で行われるのは珍しいが、何かあれば皆がどこかしらに集まってこうして大騒ぎするのは、小さい頃から慣れっこだ。

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