エリート室長の甘い素顔
 夜も更けてベロンベロンに酔っ払ったおじ達をおば達が引きずりながら帰っていく。


 かなり飲まされてすっかり出来上がってしまった大谷は、和室の壁に寄りかかってぐったりしていた。

 そこへ水を持っていった悠里を、大谷が腕を伸ばして力任せに抱きしめようとする。

「きゃあっ、ちょっ、待って! 水がっ」

 慌ててテーブルの隅にグラスを置くのと同時に、大谷は悠里と一緒に畳へ転がった。

「大谷さんっ!」

「……悠里、早く……」

「え?」

 抱きつかれるような格好で転がったまま、何か言いかけた大谷の顔に、耳を近づけた。

「結婚しよう……悠里」


 囁かれた言葉に、悠里は驚いて目を丸くした。

(酔っ払ってる、よね?)

 大谷の肩を揺するが、彼は悠里の胸元に顔を埋めたまま目を閉じている。

「……はい。結婚します……」

 そう囁き返したら、大谷はそこでパッチリ目を開けて、悠里の顔を見上げた。

「じゃあ明日、昼に役所行ってくる」

「は? え、明日って……ていうか、起きてるなら放して!」

「なんだよ、つれねぇな」

「ここ、実家の和室だしっ」


 後ろを振り返れば案の定、弟が襖の陰から心配そうに顔を覗かせていた。

「なんだ、いちゃついてるだけか……」

 弟はそう呟いて、ダイニングのほうに戻っていく。

 悠里は恥ずかしさのあまり、また顔が熱くなった。


 水を飲み余裕で立ち上がった大谷は、ダイニングにいた母と弟に挨拶をして、すんなり帰っていく。



 翌日の月曜日。

 昼休みに近くの役所で、婚姻届を予備の分と合わせて三枚ほど貰ってきた大谷は、悠里の席に来てそれを無造作に置いていった。


 それを見かけたグループ秘書の女の子たちが大騒ぎして、気が付けばその日のうちに、二人の結婚は社内中に知れ渡っていた。



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